shinkuhorou_a

真空ホロウ WEB LIMITED INTERVIEW

松本明人(Vo&Gt)、高原未奈(Ba&Cho)

僕たちの快進撃は止まらないですよ。(笑)

電車に揺られて仕事に行ったり、週末に友達と遊んだり、報われなそうな恋をしたり、何気ない出来事をSNSに投稿してみたり。変わらない日々。きっとまあまあ幸せ。でも、何かが足りない――。高原未奈を正メンバーに迎えた真空ホロウが、二年ぶりとなるニューアルバム『いっそやみさえうけいれて』をリリースした。冒頭に書いたような、どこかで煮え切らない気持ちを抱える人を“やみこさん”と称し、この世界に何万といるであろう彼女たちに向けた渾身の9曲が揃う。今回、縁あって筆者は歌詞のプロデュース・ディレクションに携わらせてもらった。その視点から掘り下げた話も、読者にはぜひ楽しんでいただきたい。二人で歩き始めた新生・真空ホロウ。この再スタート地点に立つ彼らの目には、間違いなく今までとは違う光が宿っている。

■『いっそやみさえうけいれて』。こう見ると、やっぱりインパクトあるよね。改めてタイトルの経緯から聞いていこうかな。

松本 今作のコンセプトを決めた時に、それまでよりも人の心を表したいなと思ったので、そういうニュアンスの言葉を入れたくて。それでいろいろ調べていたんですけど、印象派の絵画が、人の心を絵に表しているという文献を読んだんです。僕は心を表現するのに、絵よりも言葉のほうが直接的だなという印象を持って。それでまず、心象派っていう言葉を作った。それをタイトルにしてもいいぐらいだなと思ったんだけど、今度はそれを聴いている人のことをイメージしてみて。曲を聴いて、その人の持っている「やみ」を、悪あがきではなく昇華して受け入れて、そしたら今まで見えていなかった光も見えてくるんじゃないかって。いっそ「やみ」さえ受け入れてしまえば。そう考えた時に、今回のタイトルが出てきたんです。

■「病み」と「闇」をかけてるんだよね。

松本 やむっていうと「病む」にしかならないし、できる限り固定概念を取り払いたかったんですよ。もう一つの「闇」は、言葉通りの「闇」ではあるんだけど、文字で表すともんがまえの中が「音」じゃないですか。僕らの音によって心の扉を開けたらなって意味もあって。

■そこまで考えていたとは。

高原 初めて聞いた。(笑)

松本 初めて言った。(笑)

■タイトルも特徴的だけど、コラボレーションというのも今作のもう一つの特徴だよね。収録の3曲がコラボなわけで。

松本 そうなんだけど、僕にとっては今作は全てがコラボ。歌詞は矢作さんとだし、アートワークはアンダークイズムだし、ドラマーは二人いるし。あとは、僕らってほかの多くのバンドとは違って二人じゃないですか。だからそこを逆手にとって、自由にやってみようって思ったんです。

■アートワークと言えば、なんとファッションデザイナーとのコラボっていう。これも珍しい試みだよね。アンダークイズムのTakuya Suemoto氏こと、たっくん(筆者の友人でもある)。一緒にやってみてどうだった?

松本 末本さんが音楽好きだったのもよかったし、僕が服好きなのもよかった。あと、話した時に互いの雰囲気が似ていたのも、意思疎通が図りやすかったのかな。

高原 末本さんが私たちに寄り添って、真空ホロウを理解しようとしてくれて、ちゃんと理解してくれたなって思ってます。

■ジャケットは鮮やかなシンビジウムの花がすごく映えて。“やみこさん”に送るメッセージにもなっている花言葉があるんだよね。

松本 飾らない心。いくつかあるんだけど、今回のコンセプトにはこれが一番合ってるかな。

■では中身について。何曲かに絞って話してもらおうかな。今回の曲順は、基本的に高原さんが考えたそうで。

高原 全ての曲を通して光を感じて、聴き終わって現実に戻ってくるっていうイメージだったから、だんだんと光に向かっていくような曲順にしたんです。だから、“ラビットホール”が最後なのは初めから決まってた。一番光のある曲だから。“レオン症候群”を最初に持ってきたのは、私の中で押し曲でもあったからなんですよ。単純にこれを最初に聴いてほしいっていう。

■スラップもバシッと利かせてね。

高原 デモを聴いた時に、切迫感みたいなものを感じて。ここは絶対スラップだなと思ったんです。それも歌詞の乗り方がカオスだったから、この心情を表現するにはカオスなスラップにしようと思って。でも私、本当はカオスなスラップって苦手なんですよ。(笑)だからけっこう苦労しました。

■さすが歌に寄り添うベーシスト。今回私も歌詞を一緒に考えることになって、最初に取りかかったのがこの曲だったよね。

松本 そう!すごい時間かかった。

■お互い探り探りだったからね。さっきの高原さんじゃないけど、私も明人くんが何を伝えようとしているのかを汲むのになかなか苦労して。(笑)最初だったっていうのもあるけど。

松本 一日使ったもんな。でも、これを乗り越えてからはすごく速かった。この曲はさっきの切迫感とかカオスという言葉がぴったりで。都会の喧騒の一部であることへの違和感と、それとは裏腹な安心感を描きたかった。人の数だけグチャグチャ言葉が飛び交っているから、曲でもそこを意識して、メロディーもなく言葉を詰め込んで。歌物として世に出していく真空ホロウのニューアルバムの一曲目にメロディーがないっていう。(笑)でも、だからこそサビのメロディーはより際立っているし。やっぱりこれが一曲目であるべきだったんだと思うな。

1 / 212