■結果、おっしゃる通り、電子音楽ながらも体温や温度、熱量、手触り等が感じられる楽曲ばかりです。
安田 それらを意識して作ったこともあり、例え同じDTMでも今の最先端を追求した音楽とは、おのずと違ったものになりましたよね。
■ちなみに支援者からは、どのような提案がありましたか？
安田 「何を言ってもいい」って企画でしたからね。アレンジのことや構成のこと、けっこう細かい提案が来て面白かったです。目からうろこのアイデアもいろいろとあったし。各曲、骨子や着地点は変わってませんが、細かい部分でいろいろと変化をしてきて、現在のヴァージョンに至ってます。これにしても、「Version 10.3.3」と銘打っている通り、今後も良い意見があれば採り入れ、ヴァージョンアップしていきたいです。
■終わりが見えませんね。（笑）あと、今作はこれまで以上に一枚聴き終えた後に、いろいろなところを旅した後のような感覚を得ました。
安田 その辺りはタイトルとも通ずるところなんです。今回の『Breaking the Silence』は、「沈黙を破る」との意味合いがあるんですが、例えば会話の中の間（ま）。その沈黙を破る間に頭の中に広がっていく無数のドラマや考えること。それを各曲で表しているところもあります。会話が停まると考えるじゃないですか？<あれ、この間は何だろう…？>って。で、頭の中でいろいろなものが働く。その瞬間ですね。僕なりのそれを、この45分間に収めたんです。それと人類史…。
■人類史？
安田 人間が地球に現われて言葉を話し出すまでに、長い期間があるじゃないですか。アフリカで生まれた人類が全世界に散らばっていき、いろいろな言葉を獲得して話し出すまでのドラマみたいなものも表してみたんです。それが今作で言う“Simba na shibli”“Landfall”で。これは「アフリカから出てきた人類が新天地に上陸する」といったドラマを、この2曲で表してみました。
■基本、安田さんの音楽は余白や行間みたいなものも大事にしており、そのぶん聴き手に、その後を委ねている印象があります。それが今回の「ヴァージョン・アップ・ミュージック」ともマッチしたんでしょうね。
安田 基本、僕の楽曲類は発表した後は聴き手に委ねています。気づく人は気づく、気づかない人は気づかないで良いと思ってて。とは言え、ストレートにやれば全員に伝わるか？と言ったら、そうでもない。僕の場合は、何かマイナスなものを設けることで、逆に何か伝わるんじゃないかと思って作ってますから。
■今回はパッケージもすごいですね。聴くところによると、このジャケットに押されているシーリングスタンプは1枚1枚自ら押されたとか。
安田 そうなんです。よくヨーロッパで封書に封をする際に使うスタンプなんですが、年末年始に僕が一つ一つ全て手で押しました。（笑）ジャケットも2種類でスタンプの色も6色、計12種あって。それぞれスタンプの形も違う。何故、今回シーリングスタンプにしたかと言うと、人が作って人が届けているというのをより感じて欲しかったからなんです。
■絶対に伝わると思います。では最後に、VANITYMIXの読者に「電子音楽のすゝめ」をお願いします。
安田 女性って団体で行動される方も多いじゃないですか。僕も大学で教鞭をとっていますが、大学生の女子って、<人といかに違うことをしないかの>意識が強いようにも見受けられて。音楽に限らず、行動も、人と違うことやグループから外れることで大人に成っていく部分もあるんです。例えば、これまで聴いたことのない音楽を聴いてみたりとか…。それによってまた新しい世界が開けるかもしれない。そんな、その一人で行動できるヒントに、この電子音楽がなれれば嬉しいですね。
Interview＆Text：池田スカオ和宏（LUCK’A Inc）
PROFILE
元FPM。ジャンルレスに活動する音楽家・作編曲家・プロデューサー。生歌・ピアノを中心にした生楽器を用いシンガー・ソングライターのような楽曲をイージーリスニングやジャズのような雰囲気でアレンジした5thアルバムを2015年初頭に発表し、好評を得る。TV、CM、中野裕之監督映画、篠山紀信写真映像作品などの音楽制作も多数。新しい形の「音楽のソーシャル・ハブ」を標榜し、多様なアーティスト作を配信コンサルティングすると共に、「音楽家の写真展」や「ヴァージョン・アップ・ミュージック」など既成概念を打破する新しい音楽制作方法を実施している。
http://www.toshiyuki-yasuda.com/
RELEASE
『Breaking the Silence（Version 10.3.3）』
MD-1707
￥3,000（tax in）
MEGADOLLY, Styrism Inc.
1月24日ON SALE
