■音楽活動も続けてたんですか?
N 続けてたんですけど、ヒップホップとかレゲエに憧れが出てきたので曲の作り方もだんだん変えていってたところだったんです。仕事メインの生活になってからは自分に向き合わなくちゃいけないことがとにかく増えて、それを人に話すタイプの人間でもないので、毎日家でノートに書いてたんです。なんであんなこと言われたんだろうとか、なんでわたしはこうなんだろう、とか。それがだんだん歌詞に変わっていって、曲もコードなんてもうこだわんなくてもいいじゃんってところから変わっていって。
■その辺りからいまのスタイルになったんですか。
N そうです。ライブも変わらずやってたんですけど、それまではシンガーソングライターという感じだったので男性のお客さんがすごく多くて、そういうところも全部切り替えたかったからNakamuraEmiって表記にして、今回のアルバムに入ってる“晴人”くらいからちょうど変わり出したから、スッピンでGパンとTシャツでその曲をライブでやったらもうお客さんドン引き。(笑)
■なるほど。(笑)
N もうほんとみんないなくなっちゃって。(笑)でも自分の毎日の葛藤を吐き出すだけの場だからって、自分のストレス発散でライブはやってたんで、お客さんがいなくてもいいやって思ってたら、今度は女性のお客さんがたくさん来てくださるようになって。そこからいまにつながってる感じですね。
■そこからやっと本気でやっていこうと。
N 本気でやっていこうと思ったのはマネージャーに出会ってからですかね。それまではまだ結婚とか、そういうことばっかり考えてて。(笑)
■ほんとに普通の女の子だったんですね。
N そうなんですよ。(笑)ばあちゃんになるまでライブやれたらいいな~くらいで。でもそのときも結婚を目前とした方がいたんですけどフラれちゃって。『NIPPONNO ONNAWO UTAU Vol.2』を自主制作で作って、それを機に音楽は一度ダウンして結婚の準備かな……っていう流れだったんですけど、ちょうど“YAMABIKO”という大事な曲ができたり、すごく自分らしいアルバムができたっていうこともあって、音楽のほうにガーッていっちゃてたんですよね。そこに女性としての役割、家事とか仕事とかいろんなものが一気にきてキャパオーバーになっちゃって、そういうこともありフラれてしまって。でもわたしにはもう結婚と仕事しかなかったもんだから、これはやべーって。(笑)
■なりますよね、女性は。
N なりますね。(笑)で、とことんヘコんでるわたしを見たプロデューサーのカワムラ(ヒロシ)さんが「しっかりしろ!」っていろんな地方にわたしを連れ出してライブをさせてくれて、そのあとにマネージャーに出会ったんです。
■すごい、全部いい具合につながってますね。
N そう、だからフラれたこともよかったのかなって。でも結婚したかった~!あんときは。(笑)
■あはははは!
N でもあそこで結婚してたらこんなふうに生きてなかったから、まぁ、よかったなと。(笑)
■そうですよ。自分や歌と常に向き合いながらいろんな変化をしてきましたけど、メジャーデビューしてからはどうです?
N たくさんの不特定多数の方に聴いていただけるというのはメジャーデビューしたおかげだと思うんです。取材を受けさせてもらったり、ラジオやテレビに出させてもらったり、そんなこと自分じゃできなかったから、そうやって人の力があっていろんな人に伝わるし、たくさんの人がいるからたくさんの人にわかる言葉でっていうのももちろん大事だとは思うんですけど、たぶんそれをやったらわたしの意味はないなと思ってて。わたしはいままでやってきた音楽でマネージャーに出会わせてもらって、レコード会社に出会わせてもらったわけだから、いろんな経験から生まれたことを、これからも誰のことも気にせずに書き続けないと意味がないなって、そこに行きついたという感じはあります。
■“メジャーデビュー”でもその決意は感じられます。
N はい、書きましたね。
■「“YAMABIKO”を超えなくちゃ~」という部分、やっぱりそういう気持ちが頭に浮かんだりしましたか。
N ありましたね。新曲を書くたび、たくさんの人に出会わせてもらったこの曲を超えられるいいものが作れるのかって、常にその不安を抱えながら作ってたので、何を考えてるんだと。いままでは何も欲がなく、自分がこうだ、こうなっていきたいんだって曲を書いてたくさんの人に出会えたわけだから、いまはそれは考えないように自分に喝を入れ直して書いてます。
■自分への戒めでもあると。
N いろんな人と出会った分いろんな言葉も聞こえてきて、変えなくちゃいけないのかなとかビビッちゃうんですけど、自分らしくありたい、だから“ブレんじゃねーぞ”って自分に言って。そのためには自分と戦っていかなくちゃいけないし、自分と向き合っていかなくちゃいけないんですよね。
■常に自分と戦い、常に自分と向き合うことがやっぱりNakamuraさんが歌う意味であると。
N そう思います。自分がいるからいまのチームができて、こういう仕事ができてることを考えると余計にそうですね。わたしすごくブレやすいんです。でもいま男ばかりのチームにいて、男の人って目標があってそれに向かって物事を進めていくじゃないですか。まさにいまそういうチームなので、そこに向けてブレずに自分らしくやっていれば、たぶんみんなが支えてくれるんだろうなって。自分らしさは変わらずに高めていけたらうれしいです。
■こうやってお話を聞いているとほんとに素敵なチームですね。
N ほんとにありがたいです、ほんとに。
■そんな想いがつまったアルバムになりましたね。
N いままでは自分自分っていう曲が多かったんですけど、このアルバムは今年1年で出会って固まったチームみんなの光、メディアの方々の光、またそこからつながったお客さんの光、そういうものをいっぱい浴びて光合成みたいな状態で作ったアルバムです。だからチームやみなさんにありがとうという想いと、これからもいままでにもらった日々を宝箱にしまってがんばっていきますって、そういうアルバムになったと思います。
Interview & Text:藤坂綾