■資料のコメントでは、パンドラの箱を開けずにきたけど、ガタが来て勝手に開き始めてるのかもという表現をされていましたよね。
海北 アルバムタイトルの『すべてのおくりもの』は、古代ギリシア語の直訳で「パンドラ」なんですよ。パンドラの箱を開けてしまった張本人なんですけど、パンは「すべての」、ドーラは「おくりもの」という意味なんですね。それを見つけたときに、いい言葉だなと思って。要はいいものだけじゃなく、あらゆる厄災も含めて、神様は彼女に全部のものを贈った。そのネガティブな部分が出てこないように、蓋をした状態でプレゼントしたけど、それを開けたことで全部出てきちゃったという話なんです。それで、『浦島太郎』も、『鶴の恩返し』も、どうして人はダメと言われたことをやってしまうのか、僕自身もずっと考えていたんですけど、もしかしたら開けてしまったから物語になっているだけで、乙姫様は浦島太郎の前にも何人かに玉手箱を渡しているかもしれない。
■開けた人がたまたま浦島太郎だけだった。
海北 開けなかった人のほうが圧倒的に多いんじゃないかという発想をしてみたんですね。そうだとしたら、LOST IN TIMEっていうバンドが歌ってきた歌たちや、LOST IN TIMEの歌を愛してくれた人たちは、僕も含めて箱を開けなかった人たちなのかなって。
■「いつの日も僕はこのまま ただ君の幸せを願ってる」と歌う“トーチシンガー”なんかは、まさに開けなかった人の歌だと思いました。
海北 開けられない人っていうんですかね。
■開けてたら告白してるわけですもんね。
海北 「トーチソング」という単語自体、すごく好きだなと思っていて。届かない想いだったり、失恋してしまった人の淡い恋心だったり、要はタッチ、触れる歌っていうことなんですね。実際、その歌の内容は届いてない、触れられてないのに、「触れる歌」と表現している英語の言い回しにすごく感動して。
■それを歌う人たちが“トーチシンガー”だと。
海北 そうですね。ブルーハーツに“トーチソング”っていう歌があって、真島昌利さんが作詞作曲をしているんですけど、トーチソングの意味を知ってから読んだら、ぶったまげるくらいすごい歌詞で。「ポストが歌うトーチソングを 夜が聴きにくる」っていうくだりがあるんですけど、届ける役割のポストが、届かない歌を歌う。夜のポストっていうのは、ほぼ空っぽの状態ですよね。そんな空っぽのポストの歌を夜が聴きに来るっていう表現に、ものすごい芸術性を感じたんです。
■素敵な歌詞ですね。
海北 トーチソングのような歌を作りたい気持ちは、どこかにずっとあって。それで恋の歌を書いてみようと思ったんですけど、冒頭にも言った通り、この2年は公私ともにまったくトピックがない。(笑)特にプライベートでは、波風の立たない日々に慣れてしまった自分がいて。そんな自分を一生懸命揺り起こして、なかなか苦しんだんですけど、出てきた言葉の絶妙な淡さに自分でもビックリしたというか。友達からも「40才手前でこの淡さはないぞ」と心配されて。(笑)ただ、ある友達からは、追いかけてるアイドルに対しての気持ちに、すごく重なると言われて、めちゃめちゃ気に入ってくれたんですよ。
■確かに、そういう捉え方もできますね。「心の中で 君の名前を呟くだけで/心の中が ほんの少し暖かくなる」とか。
海北 「ぶっ刺さった」と言われました。すごく女々しいというか、男性的な歌詞が書けたなと思うんですよ。なんて言うか、言い切れない、「それだけでいい……っていうわけじゃないんだけど」みたいな。女々しさって、男のためにある言葉だから、そういう意味で男らしい歌になったと思います。
■アルバム全体を通しては、どんなことを感じてもらえたらうれしいですか?
海北 それは非常に難しいんですけど、何が難しいかと言うと、僕がこう聴いてほしいと言うことで、そうしか聴けなくなってしまう要素が今作はすごく強い。さっきも言ったように、僕にとっては淡い恋の歌だけど、それがアイドルを応援している人からしたら、自分のテーマになっちゃうみたいなことが、往々にしてある歌詞が書けたと思うので。だから、聴く人にピンと来る言葉があればうれしいですね。行間に込めた想いとかもあるけど、それを知りたかったらライブのMCとかでポツリポツリ喋ったりしてますから、ぜひライブに来てもらえたらなと思います。
Interview&Text:タナカヒロシ
PROFILE
2001年結成。都内のライブハウ スを中心に活発なライブ活動を行い、2002年にアルバム『冬空と君の手』を UK.PROJECTよりリリース。その後、幾度かメンバーチェンジを経て現在の3人 海北大輔(Vo,Ba,Pf)、大岡源一郎(Dr)、三井律郎(Gt) となる。2017年6月をもってデビュー15周年に突入。研ぎ澄まされたサウンドと圧倒的な歌声が特徴。前作『DOORS』より2年振り通算10枚目のフルアルバムを6月にリリース。
RELEASE
『すべてのおくりもの』
UKDZ-0171
¥2,700(tax in)
DAIZAWA RECORS/UK.PROJECT
6月7日ON SALE
LIVE
すべてのおくりものリリースツアー
「おとどけものとおとどけもの」
9月17日(日)東京 SHIBUYA CLUB QUATTRO
9月30日(土)大阪 梅田シャングリラ
10月1日(日)名古屋 APOLLO BASE
10月8日(日)盛岡 club change
10月9日(月・祝)仙台 FLYING SON
10月21日(土)金沢 GOLD CREEK
10月22日(日)新潟GOLDEN PIGS BLACK STAGE
11月11日(土)松山 double-u studio
11月12日(日)岡山 CRAZYMAAM 2nd ROOM
11月19日(日)札幌 Sound Lab mole
11月24日(金)鹿児島 SR HALL
11月25日(土)福岡INSA
11月26日(日)周南 LIVE rise SHUNAN