■特に“No Return”（Type Aのみ収録）は、けっこう声を張る曲じゃないですか。この人なら歌えるとわかってないと、作れない曲だと思うんですよ。
河西 そうなんですよね！「いまのともだったら歌えると思うから」と言ってくださって。ミュージカルが終わった直後だったから声量もついていたし、完成度の高いものができたんじゃないかなと思います。ちょいちょいレコーディング中に「ミュージカル出さないでー」と言われましたけど。（笑）
■もう１曲の“助手席RAIN”は、彼氏の助手席に乗っているときに、元カレを思い出す歌ですよね？
河西 そうですね。横にいる人とは違う人を。女の子って器用だから、そういう感じあるよねみたいな。でも、最後はこの彼と一緒にいこうと決心する歌なんですよ。
■「あなただけ見つめる もう振り返らない」と歌ってますもんね。
河西 やっぱり昔の思い出は美化されるじゃないですか。嫌なことがいっぱいあっても、時間が経てば楽しかった思い出が残る。でも、いまいる人とは、いいこともあるけど、リアルにいま嫌なこともあるから、そういうときに昔がよく見えてしまう。それを自分の内に秘めて、「やっぱりいまはこの人と一緒にいよう」っていう決断は、意外と男性も女性も経験しているんじゃないかな。恋愛だけじゃなく、前の仕事とかでもあるだろうし。
■最初は女って怖いと思いながら聴いてたんですけど、そう考えると深い歌ですね。
河西 そんな瞬間って、わりと誰にでもあると思うんです。特にこの曲みたいに、雨が降っていて、ぼーっと助手席に座ってるときとか。私は勝手に、夢の国の帰り道にレインボーブリッジを走ってて、あーすごい雨だわー、疲れたなー、アトラクションの待ち時間が長かったけど、あんまり話も弾まなかったなとか思い出しながら、前の彼と来たときはもっと楽しかったのにみたいな感じなのかなと。
■設定が細かい。（笑）
河西 妄想大好きなので。（笑）でも、このあとご飯の約束をしてて、いまから行くお店は彼が教えてくれたから、やっぱりご飯の趣味が超合うし、この人と一緒にいようみたいな。そんなポップな感じでもいいのかなって。
■聴く人によって、いろんな想像ができそうですね。
河西 だから歌詞っておもしろいなと思いますね。これを聴いて「わかるわー！」なのか、「最低だわー！」なのか、「チャラいわー！」なのか、どんな想像をしたのか教えてほしい。私も歌詞を見て想像するの大好きなので。
■そういう意味では、ご自身で作詞された“最後のナミダ”は、どう受け止めたらいいですか？
河西 もう大変だったんですよ！ 間違いなく今回のアルバムでいちばん苦戦しました。曲をいただいたときに、片思いの泣ける恋愛ソングにしてくださいって言われたんですよ。しかも、こういう流れで、最後はこう落としてくださいみたいな。そんな要望で歌詞を書くのは初めてで。
■めちゃくちゃハードル高いですね。
河西 もう何回も書き直して、本当に時間がかかりました。友達やお母さんにまで恋愛の話を聞かせてもらったんですけど、まず自分の恋愛観がズレていることに気付いて。そもそも片思いで泣くことがピンとこなかったんですよ。たとえば好きな男性がいて、「彼の声が聞きたいけど、彼女じゃないのに電話したら嫌われちゃうかも!?」みたいな話を聞いたんですけど、私は「別に電話したらよくない？」と思っちゃって。
■女の子にありがちな体験じゃないんですか？
河西 私は「好き」と言われて嫌な人は、基本的にいないと思ってて。そしたら、デートするにしても何するにしても、「私はあなたが好きだから一緒にいたいんですよ」って伝えてから会ったほうが時短じゃないですか？
■時短ですか。（笑）
河西 「私のことどう思ってるんだろう？」とか、「私が好きって気付いてるかなぁ？」と思いながら会ってる時間より、「好きです」と言ってから一緒にいたほうが早いじゃないですか。
■その風情を楽しむ人もいるんじゃないですか？（笑）
河西 それがまったく理解できなくて。だから、最初は片思いで好きな人に彼女ができちゃった歌にしようとしたけど、ムリだなと思って、片思いはやめたんです。それで未練というか、彼を思い出して切なくなるとかのほうが、まだ自分が理解できると思って。
■リスナーの前に、まず自分が共感できる歌を。
河西 全然違う第三者の目線で歌詞を書くこともありますけど、今回は恋愛の歌詞だし、自分で作詞する新曲はこれだけだし、「ともちゃんもこういうふうに思ったりするのかな？」って聴いてもらったほうがいいと思ったんです。自分が応援していたら、そう思うし。こういう取材でも、インタビュアーさんは「そういう恋愛してるんですか？」って聞きたいはずだから、そのときに「私、思ったこともないんですけど」とか言いたくないじゃないですか。そんなの歌ってても説得力がないし。
