■ほかに思い入れのある曲は?
yj “(Air on the G String ~G線上の)アリア~”かやっぱり“月の光”かな。“アリア”はこの1曲だけほぼ原曲のままやってるんですよ。しかも衝撃の事実があって、この曲だけ僕(ギター)弾いてないんです。
■そうなんですか!?
yj リハーサルの時点でこれでいいじゃんって。(笑)カバーに限らず、基本、曲を作る人なので…ミュージシャンって誰もが作ることと演奏することの比重ってあると思うんですけど、僕は9:1で作る事の方に重きを置いていて、自分が弾く弾かないはあまり関係ないってのはあるんですよね。
■なるほど。今回原曲を聴いたりいろいろ調べたりしたんですけど、“G線上のアリア”自体、原曲ではなく、ヴァイオリン曲にアレンジされたものなんですよね。
yj そうなんですよね。だからこれはすでにアレンジされたものをさらにカバーした形です。正直初めて知りました。
■わたしもです。クラシックはそういった細かいエピソードが多くておもしろいですよね。
yj たしかに、やるにあたって背景とか調べたりしておもしろかったですね。“(Gymnopédies) ~ジムノペディ~”とか、みんなが耳馴染みある部分からちょっとそれると一気に変な雰囲気なんですよね。とてもシュールで田舎の駅前みたいな。
■え?
yj 駅前でビルとか立って栄えてるのに、数メートル行くと田んぼになってる、みたいな。そういうのを僕はネオ田舎って呼んでるんですけど(笑)、ちょっと離れた瞬間にここどこ?みたいな。“ジムノペディ”もそれと同じで、冒頭からだんだん後のほうにいくと、え?何この雰囲気?みたいな。
■あー、たしかに。(笑)
yj そこでこの曲にはどんな意味があるんだろうって調べたら、お祭りというか、儀式的なものを題材にした曲らしいんですよね。
■“ジムノペディ”っていう祭典の。
yj そうそう、祭典。あと実は、“月の光”のドビュッシーと“ジムノペディ”の(エリック・)サティは仲良しだったんですよ。
■へー、そうなんですか。
yj そういうつながりもあって、そこでちょっと見ていただきたいのがCDの帯の〈「私のアレンジより良い…」ジムノペディを聞いて彼はそう言ったかもしれない〉って、これなんですけど。
■これ気になってたんです。
yj これはどういうことかというとですね、実はドビュッシーが“ジムノペディ”を編曲してるんですよ。
■えー!
yj 知らないですよね。
■知らないです。
yj “ジムノペディ”のドビュッシーヴァージョンっていうのがあるんですよ。だからこの言葉は自分の理想としてドビュッシーに言われたい言葉で、もしドビュッシーが生きていたら「私のアレンジより良い…」って言ったかもしれない。(笑)
■なるほど、言ったかもしれない。(笑)
yj 実は選曲後いろいろ調べていく中で知ったことなんで、この2人の曲を選んだ時点でおもしろいなって。こういういろんなミラクルが起きてたという。
■今回できない曲もあったってことは、これは続いていく作品なんでしょうか。
yj よく気づきましたね。(笑)そのために『CLASSICS』ってシンプルなタイトルをつけました。発見が多いし、広く様々な層のリスナーにたどり着けるかもしれないという可能性も持ってるので、この活動を続けていくのもおもしろいかなと思って。実際そういった層の人たちに少しは通じる何かができたのかなとも思います。たぶん聴いてもらえれば何かしらの感情は沸くと思うんですよね。聴いたことのあるクラシックをAYANOらしいフォーマットでやってるので、聴き覚えのある音楽を通してこういうバンドがいるんだぞ、ってことを知っていただいて、オリジナルの作品にも触れていただければうれしいですね。
■クラシックという1800年代の音楽をいまAYANOがやるということもおもしろいし、音楽ってこうやってつながっていくんだなっていうことにあらためて音楽の素晴らしさも感じたし、それがこれからどうなっていくのか、いろんな楽しみ方ができる1枚だと思います。
yj 彼らはこうやって200年後にも残っているわけだし、自分たちもやっぱりそうなりたいと思うし、今回すごく自分たちらしいカタチにできたんじゃないかと思います。実は先ほども話したこの帯の言葉、もうひとつかけていることがありまして。
■はい。
yj 先日ギタリストの亮弦さんという方が亡くなられたんですけど、彼がギター1本で“ジムノペディ”をカバーしてるのを聞いたことがあって、それがすごく美しくて、僕もやりたいと思って今回カバーしたんです。共通の知り合いもけっこういたんですけど残念ながら自分はご一緒することがなく、SNSで亡くなられたことを知って、その日すぐに流通の担当者に「アルバムを出したい」って連絡したんです。だから〈「私のアレンジより良い…」〉ってここには、自分の中では亮弦さんのことも含まっているんです。
■なるほど。
yj リリースの日程を決めずに先にレコーディングをしてて、その最中に亡くなったことを知ったんですけど、これはもう絶対出さなくちゃって…200年前の作曲家さんもそうだし、いまカバーした人の想いも継ぎたいなと、そういう意思を込めたアルバムでもあるんです。人ってそうやってインスパイアしあって生きていくから、俺も亮弦さんにインスパイアされたんだよってことを言い残したくて、こういうカタチでメッセージとして届けばいいなって。
■音楽ってそういう力、あると思います。
yj だからタイトルも実はすごく悩んで、“つないでいく”っていう意味のタイトルにしたかったんですけど、英語的にむずかしいし、一語がよかったんですよ。なのでわかりやすく『CLASSICS』にして。でも「CLASSICS」って古典という意味なので、それがCD屋さんに並ぶってだけでもうつながっているのかなって。全部を全部言葉に込める必要はないし、言葉だけじゃなくて状況や環境とかも含めてそれが表現できればいいし、このタイトルにしてよかったなってあらためて思います。
Interview & Text:藤坂綾
PROFILE
ベーシストとして活動してきたyj(Vo&Gt)を中心に2006 年結成。2008 年の郁(Ba)の加入をきっかけに精力的にライブ活動を開始。2014 年1 月、バンド史上初となる全国流通でファーストアルバムをリリース。2015年6月には初のシングルを配信限定でリリース。2016 年7 月にプラネタリウムにてプログレシッブバンドptf とスーパープラネタリウム“MEGASTAR” を導入したツーマン公演を開催し、SOLD OUT。同年12 月、アートイベントを開催。2017 年10 月21 日、22 日には第2 回となるアートイベントを開催し大成功を収める。
RELEASE
『CLASSICS』
TOWER RECORDS限定リリース
TKSD-0005
¥1,944(tax in)
TOUKOTSU SOUND
12月20日ON SALE