“表現したい”から“伝えたい”へ、夢を追い続けて見つけた音楽の魔法
前作『Handmade Soul』ではiTunesやBillboard JAPANのジャズチャートを席巻し、極上のボーカルで聴く者を唸らせたHanah Springが、約4年ぶりとなるニューアルバム『Dreamin’』をリリースした。2000年代初頭のR&Bをテーマにしたという本作には、事務所の先輩でもあるMISIAやMUROなど、当時のシーンを築き上げた重要人物も参加。ひたむきに歌という夢を追い続けてきた彼女にとって、自身に大きな影響を与えたミュージシャンたちとのコラボレーションが実現した一方で、プライベートでの結婚を経たこともあり、より温かみのあるラブソングが胸に響く作品となった。リリースから1週間が経った彼女に、前作からの心境の変化と作品への影響を語ってもらった。
■前作『Handmade Soul』から約4年ぶりのリリースとなりました。その間の活動を振り返っていただけますか?
Hanah 制作だったり、ライブだったり、音楽漬けで毎日ドタバタしてました。煮詰まったときはギターを持って海外の友人を訪ねて、近隣のバーとかでライブをしたんです。そこで日本語の曲をあえて演奏して、お客さんたちが踊っているのを見て、「自分がやってきたことは間違ってないんだな」とか、そういう確認をしていました。
■そんなことしてたんですね!どこの国へ行ったんですか?
Hanah アメリカとオーストラリアです。自分のことを誰も知らなくて、言語の違う場所で歌って、そのへんにあるシェイカーを持って踊りだす人がいたり、セッションが始まったり、それで友達ができたり。音楽には人と人をつなげる接着剤みたいな力があるんだなということを改めて感じました。そういう経験を東京に持ち帰って、旅で見てきた景色をみんなに見てもらいたいなと思いながら、根詰めて4年間制作していましたね。
■その4年間を通して、今作ではどういうことを伝えたいと?
Hanah 自分は歌うことが大好きだということと、聴いてくださる人に伝えるということをもっと大事にしたいなと思いました。たとえば前作だったら、すごくジャズっぽくて複雑なコードだったり、和音やハーモニーだったり、バンドのアンサンブルでもトリッキーなキメを入れてみたり、難しいことをやっていたんです。でも今回は、それよりも素直に伝えたい気持ちが強かった。いまはそういう自分なんだなと思います。
■前作のときは、難しいことをしなきゃという意識が?
Hanah そうですね。以前メジャーレーベルからCDを出していたとき(2010年にユニバーサルからHanaH名義でデビューし、2枚のアルバムを発表)は、自分のクリエイティブな部分を殺していたというか、出せなかった心残りがあって。それで4年前のアルバムでは、ミュージシャンシップにこだわって、音楽家としてワクワクすることをしたかったんです。その結果、音楽マニアの人たちから「おぉ〜」と言ってもらえたんですけど、必ずしも伝わりやすいものではなかったと思うんですよね。だから今回は、もっと素直に、たとえば何も知らないおばあちゃんとかが聴いて、心に温かいものが残るようになったらいいなとか、そんなことを目指して作りました。
■前作とは届けたい対象が違う。
Hanah 前はとにかく表現したい想いで、いまは届けたい想いという感じがします。
■『Dreamin’』というアルバムタイトルは、1曲目の“Dreamin’(living in a dream)”から来ていると思うんですけど、どういう想いを込めたんですか?
Hanah 自分の核となる部分はなんだろうと思ったら、やっぱり歌うことを夢見て、歌うことが大好きな音楽少女っていうところで。それが30歳を過ぎても諦め悪く夢を追いかけ続けていて、それによって友達ができたり、素晴らしい経験をさせていただいたり、改めて音楽の魔法ってあるんだなということに原点回帰しようと思ったんです。それで自分が歌うことを夢見始めた思春期、2000年代初頭のR&Bミュージックをテーマに掲げて制作をしました。
■今回の作品に参加されているMISIAさんやMUROさんなどは、まさに2000年代初頭のシーンを作ってきた方々ですよね。
Hanah そうですね。MUROさん、DJ HAZIMEさん、MISIAさん、TIGERさん、佐々木潤さん、日本にこんな素晴らしい音楽があるんだと思わせてくれた、私からしたらアイドルのような方々にご協力いただけて。それから普段のライブでバックをお願いしているバンド仲間たち。そのコラボレーションという感じでアルバムを作らせてもらいました。
■MISIAさんは“Time Traveler”の歌詞を提供していますが、どんなお話しをされたんですか?
Hanah この曲はキーも難しくて、リズムが立つ言葉とか、いろんなことを考慮して「Time Travel」というキーワードが出てきたんですけど、人を好きになると、あっという間に時間が流れてしまったり、逆に会えない時間が長く感じてしまったり、そういった時間軸と恋する気持ちをテーマに歌ってみたらどうかなって。
■素敵なテーマですね。
Hanah 素敵ですよね。恋する気持ちを歌うのは、何歳になってもいいものだなと思いました。MISIAさんと出会ったのは、私がまだ19歳のときだったんですけど、そのときと変わらない妹のようなイメージをしてくださったみたいです。この歌詞がすごくロマンチックで、ファンタジーな要素を持っていたので、それがきっかけになって、今回はちょっと夢見がちなこととか、音楽を通じてしか表現できないことをテーマに、アルバム作りを進めようと思ったんです。
■TIGERさんからは“NONO MAMA”の歌詞を提供してもらってますが、「私はあなたのママじゃないのよ」という大胆な歌ですよね。
Hanah 最高ですよね。これ、本当に胸がすっとするんですよ。(笑)TIGERさんからすると「Hanahちゃん、かまととぶってないで、言いたいこと言っちゃいなよ」みたいなことを思って書いてくれたんだと思います。
■そういう「私はお母さんじゃないのよ」っていう感覚は、20代の頃もあったんですか?
Hanah ないですね。でも、男性はパートナーに母性を求めている部分が少なからずあると思うんです。20代の頃は気づかなくても、付き合いが長くなってくると「またこれか」みたいに感じるんでしょうね。(笑)まぁ、男の人にも甘えたいときはあるでしょうから、そういうときはドンと構えてあげたいです。