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鮎川桃果 WEB LIMITED INTERVIEW

何があっても役者を頑張る。自分との“賭け”だから。

sub女優として舞台や映画を中心に活躍する鮎川桃果さん。ふわっとした空気感と気負うことのないナチュラルな佇まいが、独特の魅力を醸し出している。芝居でも、そんな自分のありのままを表現。決して誇張するわけではないのに、存在感のある役になるのが不思議だ。そんな演技の感覚を手に入れたきっかけは、現在、演劇界で高い注目を集めている前田司郎さんのワークショップだったという。8月16日からは、前田さん作・演出の舞台『宮本武蔵(完全版)』にも出演する。

■『宮本武蔵(完全版)』は、前田さんが“ゆるい”剣豪の日常を描いて人気を博した舞台ですよね。今回は再演作品とのことですが、出演はどのように決まったんですか?

鮎川 実は前田さんのお芝居やドラマによく出させていただいて、稽古場や飲み会などにもよく行くんです。その流れで「もしかしたら、出るかもよ。でもまあ、大人の事情でわかんないけど」っていう話が直接あって。(笑)「じゃあもしご一緒にできたら、よろしくお願いします!」みたいな感じで。そのあと、事務所を通じて正式なオファーをいただきました。

■事務所より先ですか!交流が深いですね。

鮎川 3~4年ぐらい前に、前田さんの劇団「五反田団」さんのワークショップに、同じ事務所の相楽樹ちゃんと参加したのが、交流の始まりです。15日ぐらいの日程で、毎日3時間エチュードなどを行いました。

■前田さんの最初の印象はどうでした?

鮎川 私たちも指導してもらいにきてるから、最初、緊張感がありました。大人数の前で指導する前田さんを見て、ちょっと壁がある感じはあったんです。後から聞いた話ですけど、前田さん自身も“事務所から依頼されたお仕事”みたいなスタンスだったそうです。でも、そのワークショップって、最後にみんなで鍋をやるんですよ。それでだんだん交流が深まっていった感じです。前田さん、話しやすいし、女の子のどうでもいい話をすごいよく聞いてくれて、さらにそれをすごくおもしろく変換してくれるんですよ。それが楽しくて。

■なんだか合宿みたいですね。鍋を作るのは前田さん?

鮎川 そうです。レシピも毎回違いましたね、キムチ鍋もあったし、トマト鍋もあった。私が「パクチーが好きだ」って言ったら、パクチー鍋もつくってくれました。前田さん、けっこういろんな鍋をつくるから、「そんないろいろやってて、失敗したことないんですか?」って聞いたら、紹興酒を入れた鍋をチャレンジしたときだけ、すっごくマズイのができたって。(苦笑)でもそれ以外は、鍋が残ったら、それを使ってまた次の日に足して、別のものをつくってました。

■上書きしていくんじゃなくて、いろいろ生かして、次に?

鮎川 そうそう、そんな感じです!それは前田さんの芝居に対する姿勢と似ているかも。最初から決めるんじゃなくて、これも合うんじゃないか、あれも合うんじゃないかって試していく、そういうタイプの方です。そのときのワークショップにも、中学生からおじさんまでいろいろな人が参加していたんですけど、その一人ずつの個性を生かしてくれるような感じでした。お芝居の指導も、伝わらなかったらいろんな方向から説明してくれるんで、それに自分がハマったら、理解できてスッキリするっていう感覚がありました。

■いちばん学んだと思うことは?

鮎川 「一人の人間が誰かになろうとするな」って言うんです。殺人鬼になろうとしても、人を殺したことないし、殺人した人に比べたら、自分が生きてきた人生で想像できることってたかが知れてる。もっと力を抜いて自分に近いように芝居したら、自分らしさが出るんじゃないかっていう話をしてくれました。「演じる」って<役をかぶんなきゃ、かぶんなきゃ>って思ってたんですけど、自分を出せばいいんだと気づきましたね。

■そのワークショップの後、前田さんの作品に出演するようになった、と?

鮎川 そうなんです。NHK BSプレミアム『徒歩7分』の黒崎美紀役で出演させていただきました。これはオーディションが一応あったんですけど、スケジュールの都合がつかなかったんです。そうしたら、前田さんのご自宅のリビングで特別にオーディションを開いてくださって。

■一人だけのために、しかもリビングで!?

鮎川 そうなんです。もともと前田さんの劇団の稽古場が、ご自宅の近くだったってこともあるんですけど。それで、ご自宅にNHKの方もいらっしゃって、私がキッチンの影から登場して「初めまして、鮎川桃果です。よろしくお願いします」ってオーディションが始まって。(笑)シチュエーションはおかしいですけど、特別扱いだったのでめちゃくちゃ緊張しました。

■すごく肩入れしてくれてますね。鮎川さんのふわっとした空気感が、前田さんのよい意味で“ゆるい”作品とマッチしているからかもしれませんね。

鮎川 ありがたいことだなと思います。

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