■他にも、今回はこれまでにないぐらい素直な表現が多いのも印象的でした。
安島 いい時も悪い時もある、僕はそれが人生だと思っていて。自分の葛藤も含め、あっちにいったりこっちにいったり、挑戦したり、挑戦に敗れたりを、全て表現やアート、物語として表したいんです。悩んだことも間違ったこともキチンと曲として表す。それが僕の中でのロックの面白さでもあるし。常に予定調和で美しいエンタテインメントばかりじゃない。僕の中でパンクも大切にしている部分なので。
■どの辺りを?
安島 僕の中でのパンクって否定ですから。
■いわゆるアンチテーゼのアティテュードですね。
安島 昨日の自分さえも否定して進むというか。否定こそがポジティブなエネルギーの根源ですから。
■では、ある意味、安島さんの中では今作でこれまでのThe Flickersを壊したところも。
安島 いや、<壊れた>と言った方がイイかも。(笑)いい意味で。
■とは言え、これまでポジティブな言葉が並んだわりには、歌は相変わらず諦念が根底にあるような……。
安島 正直、諦観の音楽ですから、僕ら。(笑)その辺りはやはり拭い切れない。だけど、今作が以前と決定的に違うのは、今までは<死ねなかった……>で終わっていた物語が、死ねなかった次の日からまた始める、そんなところに行き着けたことで。今回は絶望を出発点に、”この先に希望がありますように…”との願いを込めて音を鳴らし、曲を作る。そんな中で生まれた曲たちばかりなんです。
■ちなみに今回の方向性にはメンバーも全員一致で大賛成を?
安島 いや、僕が強く押し通しました。(笑)みんなと意見をぶつけ合ったり、話し合いをしたりして、時には1対7だった時もありましたが、結局、僕のワガママを貫き通させてもらいました。とは言え、今回はエゴだけではなく、僕なりの聴く人への優しさとでもいうか。そこに想いを馳せての10曲だったし、この並びなんです。
■例えば、ここまで自身を変化させることへの恐怖はなかったんですか?ややもすると、これまでのファンも去って行ってしまう懸念もはらんでいるわけで。
安島 そりゃ、怖かったですよ。だけど、挑戦を続けることが大事ですから。常に既存や概念をぶち壊し、次のもの、新しいものに向かって進んでいく、そうじゃないとダメだし、大事だと信じているんです。それは勝ち負けや出来る出来ないではなく、その姿勢こそが大切だろうと。いわゆる表現者として。
■あと、これまでになかった感情表現や起伏も今作の特徴かなと。
安島 より大人になろうとする歌になったかなって。今までは鬱々とした気持ちの歌詞を書いて、それをメロディの爆音でごまかして歌に見せかけていたけど、今回はキチンとメロディを作って、そのメロディを奏でるように歌を歌いたいと思いましたから。それをしっかりと響かせるアンサンブルが必要だったから、今の編成や表現にもなったし。僕個人、この1年でボイストレーニングにも通ったりしましたからね。歌にしても、今までの鬱々とするか、暴発のどちらかではなく、冷静と情熱の間も表せるようになったと言うか。もちろん従来通り、”振り切れるところは振り切れて歌えばいい!!”と感情に従って歌ったところもありますけど。
■最後に今作の聴きどころを教えて下さい。
安島 1曲1曲に思い入れがありますが、アルバムを通して物語があって、歌詞にもいろいろな意味を含ませていたり、伏線が張られていたりするので、その辺りの歌詞の強度も是非楽しんで欲しいですね。各曲にメタフォリカル(隠喩)やギミックがあるので、その辺りも是非いろいろと発見して楽しんで下さい。
Interview&text:池田スカオ和宏(LUCK’A Inc)