現代(いま)という時代を、独自の伝達方法と表現にて、
捉え、挑んだ、SKY-HIの新作たち
こんな時代だからこそ、あえて……。リリック内容、ラップ、バックトラック、表現方法や伝達方法……。SKY-HIのニューシングル『アイリスライト』、アルバム『カタルシス』からは、無数の<こんな時代だからこそ!>が、彼なりの挑戦やアイデンティティを含め詰め込まれている。門戸を広く開けた様々なタイプのトラックや楽曲。聴きやすく、入りやすくも、そこを入り口に、グイグイとドープなゾーンへと惹き込み、最終的には彼が言わんとしたかったこと、伝えたかったことが、聴き手なりの解釈や咀嚼、思いや気持ちを交え、いつの間にかしっかりと汲み手の主張へと変わっていたりするのも特徴的な今作。常に現代(いま)という時代を捉え、そこにどう向き合い、挑んでいくか。そんな彼らしい姿勢やアティテュードが、今回の2作からも迸るように伝わってくる2連作だ。
■まずはニューアルバム『カタルシス』の話から訊かせて下さい。聞くところによると、今作のイメージ自体はけっこう以前からあったそうですね?
S 構想自体は『スマイルドロップ』を出してすぐ頃から芽生えてました。2015年の2月ぐらいにはあったかな。その時点で、既に作品全体の音像は、頭の中にありましたからね。いわゆる、<いま自分がやるべき音像>とでも言うか……。
■その、やるべき音像とは?
S 今後、もっとプレイリスト的な音楽の楽しみ方が増えていくことを予想して、そこに対応出来うるものを作りたいなって。
■今やミュージック・サブスクリプションを用いて、好きな音楽を好きな時に好きなように聴けますもんね。
S それもあって、あえてそれらに寄り沿ったものにして、引き出しや球数の多さをアルバム単位では前面に見せていきたかったんです。それはある意味、ジャンルを「SKY-HI」としか表せないものにする意図も含んでいて。それを徹底的に具現化してみたのが、このアルバムでもあるんです。
■そこには、いろいろと表すが故、逆に自身の実像や真意が見えにくくなってしまう懸念等は無かったんですか?
S ありましたよ。だからこそ、実際に音楽を構成する要素、メロディと歌詞に関しては明確な筋を通すところにこだわりました。聴いている方々の同じ部分のいろいろな場所を刺激出来るような作品を目指したんです。
■それは?
S 人が持っている痒いところを少しづつ掻いてあげて、文字通りのカタルシスを得れるところまで音楽を通して昇華させる、そんなところですね。
■では、今作のタイトルの『カタルシス』は、その辺りから?
S それに関しては、今作では例えは様々だけど、生きる、死ぬを歌っているところが多々あって。2015年のツアー中、何度もステージで、“ああ、俺は生きているんだ……”と実感したり、“目の前にいる、この方々のおかげで自分は生かされているんだ……”等、改めて気づかされたりしたんです。当たり前だけど今は、いつ、何が、どこで、どう起こるか分からない時代じゃないですか。それらを覚悟も含めて見据えたが故の生や死を歌ったところもあって。それらも含め、「死を語る」「語る死す」で、「カタルシス」でもあったり。
■なるほど。だけど、その辺りもあえて直接的にはラップせず、聴き手が感じたり、気がついたりする程度に表現しているところにも、非常にユニークさを覚えました。
S それはあえてなところもあります。直接歌うのももちろんだけど、浮き彫りや浮かび上がらせる、そんな表現をした楽曲も多々ありますからね。
■それがテーマのわりに説教くさく感じさせないところに紐づいているんでしょうね。提起はするんだけど、あえてその先は聴き手個々に委ね、考えさせる手法も今作では光っています。
S そこはかなり意識しました。そういった点では、今回は作っている最中、これまでで最も受け取る人の目や姿を浮かべながら作ったかも。あとは、作品全体的に、<気持ち良くないとダメ>というのもあったし。
■その辺りは、先ほど話に出た、ライブからも何か起因が?
S そこで培ったバランス感かもしれないですね。すごくエンタテインしつつ、きちんとそこに伝えるべきメッセージをしっかりと内包させる、そんなイメージでした。例えば、ディズニーの作品って、無条件に幅広い層を受け入れるだけの度量を持ち合わせているじゃないですか。エンタテインとして。しかも非常にハードルも低い。で、きちんと奥深いところまで誘ってくれる。目指したのは、そこでしたね。なので今回は、あえて最初の間口は広く入りやすく。だけど、一度入ってしまったらきっちり深いところやコアなところまで連れて行く。それらをイメージして作っていきました。いわゆる、敷居は低いんだけど、実際入ってみると、奥はすごく広い、みたいな。