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NakamuraEmi WEB LIMITED INTERVIEW

■“N”はNHKの番組がきっかけでできた曲ですか。

N   NHKの番組でパラアスリートの中西(麻耶)選手とお話をして、わたしが感じることを曲にしてください、ということで、応援歌ができればいいなと思ったんですけど、実際会ったらわたしが応援歌を書くような、書けるタマじゃないくらいすごい人で。とても綺麗な方なんですけど、右足を失くしてからパラリンピックに出るまでの人生を歩んだ彼女に会った瞬間、もうとんでもないなと。応援歌どころじゃなくて自分が教わることばっかりで、この女性と向き合って自分が一体何を書けるのかってすごく悩んで。

■はい。

N   この人に会って自分が何を思ったかって、障害を持って生きてるということを自分はすごく特別視してたなって。大変な中で生きてられる方だから特別という感じだったんですけど、そんなものもすべて乗り越えていまを一生懸命生きてらっしゃるんで、もう大変だとかの次元じゃないんですよね。だから、いま日本でこうやって障害を持ってがんばって生きてる方があたりまえに普通に生きられるようにするにはどうしたらいいんだろうって考えるようになって、それくらい障害というものを特別じゃないというか、右足がないということを左利きみたいに見させてくれた方だったんですよ。

■左利き。

N   スタッフが左利きなんですけど、特に何でもないじゃないですか。ごはん行ったときにちょっと腕があたるね、くらいで。

スタッフ   あとはハサミが使いづらいとかノートが書きづらいとか。

■右利き用に作られてるものが多いですからね。

N   本人はそうやっていろいろあるけど、周りはそこまで気にせずって感じじゃないですか。

■はい。

N   一緒にいると普通だし、自然だし、そういう感じなんですよ。

■あー、なるほど。

N   右足がないことを忘れちゃうくらいなんです。それを感じさせないくらい素敵な女性で、強いし、みんなをどんどん笑わせていくし。もちろんすべてを乗り越えて強くなられたと思うんですけど、ほんとかっこよくて。でも何かをやろうとすると障害を持ってるからいろいろ言われて、やっぱり悩んだそうなんですよ。だから右足がない方も、車椅子の方も、顔面マヒの方もあたりまえになればいいのにって、初めてそう思えたというか、それまで自分が特別視してたんだなっていうことに気づいて、そこから自分もあたりまえになるように発信していきたいと思ったし、そういう日本になるにはどうすればいいのかなって、そういうことをいろいろ考えるようになったんですよね。

■大きな出会いになりましたね。

N   はい。相手がどんな人なのかを理解するのと同じようにまずはやっぱり会話をして、障害があるなら、例えば駅のホームで見かけたら自分は何ができるだろうとか、声をかけることだけでもできるし、相手にとって迷惑なこと、必要なことも話せばわかるし、そういうコミュニケーションがもっとあたりまえになればいいなって思いますね。

■“かかってこいよ”はTVアニメ「メガロボクス」のエンディングテーマですね。

N   脚本を読ませてもらったとき涙が出るくらい感動したんですよ。いまって幻想的な世界のアニメも多いですけど、血を流しながら戦っているシーンを読んで、自分が伝えたいもの、いまのSNS社会の中で戦う大切さみたいなものとリンクしたんですよね。いろんなものが流行ったりいろんな言葉があるけれど、すべては自分自身っていうことを常に思っているので、自分を奮い立たせるために自分に向けて書きました。

■この曲もまたアニメだけではなく、Nakamuraさんの曲として存在していますね。

N   自分の応援歌でもありつつ、聴く人にとっても、たぶんいろんな世界でそれぞれ戦ってると思うので、負けそうになったときに「かかってこいよ」って自分に言えるような曲になればいいなと思います。一時期、何でも人のせいにして生きてた時期があったんですけど、いまは相手を攻めるより、何でそういうことを言われたのか、何でそう言わせてしまったのかって考えるようになったんです。そういう意味で、イヤなこともいいことも全部自分が作ってるんだなって。で、イヤなことがあったときに自分が頑張れる曲にしたいなと思って、アニメのイメージもありつつ、自分も戦っていこうって、そういう曲です。

■“新聞”はコミュニケーションというのがいちばん現れてるかなと思いました。

N   この曲はアルバムの中でコミュニケーションというものをいちばん伝えられたかなと思います。これは朝日新聞さんのラジオCMのタイアップがきっかけなんですけど、“新聞”って自分がすごく気になってたワードで、歌詞にしたい想いがあったので、すごくありがたいきっかけをいただきました。人の心が豊かになるものって機械だけではどうしようもないところが絶対あると思うので、そういうぬくもりみたいなものを伝えられる曲になればいいなと思って、シンプルな構成で音もシンプルなんですけど、伝わればいいなと思います。

■“波を待つのさ”は、プロデューサーのカワムラ(ヒロシ)さんのサーフィンからできた曲ということですが。

N   カワムラさんがサーフィンをやってて、どれだけ忙しくても、ライブがあっても「朝、波乗ってきた!」って、ほんとよく行くんですよ。ほぼ同じ生活スタイルのはずなのに、どうやって朝から湘南に行ったり静岡に行ったりするんだろうって。

■静岡まで行くんですか。

N   行くんですよ。すごいなって思うんですけど、いい波に乗れたときっていうのがもう最高らしいんですね。今日の風はこうだからこの辺の波がいいとか、風や波を何時間も待ってやっといい波がきたとか、ああ、この人たちは自然界と一体となって遊んでるんだなと思ったら、自分はあまり自然界に触れてないということに気づいたんです。わたしは天気予報を見て対策ばかり練ってるけど、カワムラさんは自然界と楽しく一緒に生きているという感じで、常に風や波を見て、話し合って、からだで感じていろいろ判断してるんですよね。そういうことを感じながら生きてる人ってすごく心が豊かだし、気持ちもデカいし、大切なことなんだなと思って、そういうことを伝えられたり、歌いながら自分で感じられたらいいなと思って作りました。

■雨が降ったり風が強かったりするとついつい抗ったり、文句を言ったりしがちだけど、自然と共存するってこういうことだなって、この曲であらためて思いました。

N   自然に生かされてるとか、そういう言葉もあたりまえにあって使ったりするけど、実際にはちゃんと感じられてないんだなって思いますよね。サーファーの方、農家の方もそうだと思うんですけど、自然とちゃんと向き合って生活されてる人ほど豊かな心を持ってる人っていないんじゃないかって思ったし、それってすごく素敵なことだなって思います。

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