アニバーサリーイヤーを目前に、ひたすらリアルを追い求めた河村隆一”渾身の前書き”
約1年ぶりにフルアルバム『Colors of time』を9月28日にリリースする河村隆一。来年にはソロ20周年を控え、その序章となる作品が満を持して生み落とされる。言葉や音一つひとつの持つリアリティーを究極まで追い求めた10曲が収録され、中には自身の熱いエピソードを背景に持つ思い入れ深い曲も。このインタビューを読む前と後とで、本作の放つ色は大きく変わっているはずだ。
■前作から約1年ぶりのアルバムとなりますが、今回収録されている10曲はどういう経緯で世に出されることになったんでしょうか。
河村 前作は、ボーカルもノンリバーブで全ての楽器を生で録ったんです。今回はシンセを使いたいなと思ったのと、リズム隊を少しロックな感じにしたかったというのがあって。まずはそのコンセプトを打ち立てました。それに合う楽曲をということで、前から書き溜めていたものもありますし、足りない分は書き足していくという作業工程でしたね。このアルバムのタイトル曲でもある”Colors of time”は、実は2年前から存在していた楽曲です。
■今作へのコメントで、「ライブのようにみんなに熱を感じてもらえる“リアルな唄”を目指した」とあります。この辺りを詳しく聞かせてください。
河村 キャリア的に長くやっていると、自分がどう聴かれたいか、どう聴いてほしいかというエゴが邪魔をして、どんどん曲を作ってしまおうとするんですよね。よく、みなさん写メを撮って、それを修正してアップするじゃないですか。同じように録音って修正がきくから、歌も直そうと思えばどんどん直していけるんです。過剰に演出してしまう。でも今回は敢えて一発録りにチャレンジしようと思って。歌録りはコーラス含めて10曲で3日間、実はその間に作詞もしているんです。そうやってその場で歌っていった。それが=(イコール)ライブ感のある歌ですよね。一発で歌おうとすると、細かな演出の調整なんてできないじゃないですか。でも、そのほうがストレートに歌詞の世界が届くんじゃないかと思ったんです。
■一発録りにこだわってやってみて、いかがでしたか?
河村 細かいことを言えば、直そうと思う耳も気持ちももちろんあります。でも手を抜くということではなくて、音楽って必ずしも合っているからいいわけじゃないって最近思うようになって。もちろん上手くないと聴いていて気持ち悪いし、それは最低限必要なんですけどね。言葉によっては、もしくは言葉の主人公が泣いているのか笑っているのかによっては、少し暗めに歌ったらいいのか明るめに歌ったらいいのかとか、違ってきますよね。もっと言うと同じ暗い・明るいでも、暗いならフラットしていたらいいのか、明るいならシャープしていたらいいのか、そういうことも出てくる。とある日本の大ヒットした歌謡曲があるんですけど、歌い出しがずっとフラットしているんですよ。音楽をずっとやっているとそういうのが引っかかるんだけど、「なんでだろう?」ってスルメを噛むように何回も聴いちゃって。そのうちに、この歌詞は少しフラットしていたほうがいいなって。ジャストに歌ったら、伝わってくる空気が違うんだろうなって思いましたね。
■今回、そこは意識されたんですか?
河村 僕の今回のアルバムでいうと、敢えてフラットさせよう、シャープさせようというのはないです。言葉って話すとき特有の音があるんで、普段は変な発音はしないですよね。でもメロディーに当てはめるとなると、そこに矛盾が生じる。頭の中ではまだ理解しきれていないその矛盾を相対しようとして、シャープしたりフラットしたりというのが人間なのであるんですよね。そこをリアリティーとして残そうかなと思いました。
■河村さんにとって「リアルな唄」というのは、そういうところからもきているんですね。
河村 そうですね。音楽ってライブでやって初めて、小説が映画になるように、映像が目の前に現れる。本人が歌って、本人の動きもあるし表情もある。でもCDだとそれがないから、想像していくんですよね。その時に「こういう声の出し方をしたい」と一生懸命に喉の形を作りこんでいくと、本人は満足するかもしれないけど、ちょっと自分本位というか。一発録りであれば、どれだけ歌の上手い人でもそこまでいじりこなせないじゃないですか。今回は何曲か息を殺すようにというか、声を張らないような歌い方をして。それは雨の日にレインコートを着て一人でつぶやいているように歌うとか、水の中で歌っていたり、星を眺めながら隣の人に歌っているだとか、そういイメージだけ持って、その世界の中でのリアリティーを意識しました。
■歌詞に関しては、「雨」「花」「蝶」「風」など自然に関するキーワードがほとんどの曲に散りばめられていますね。
河村 多いですよね。僕は普段、ブログなんかにその日あったことや歌詞になりそうなことをショートストーリーとして書いていて。それを読み起こしたりしながら実際に曲に当てはめていったんですけど、最近は特にそういう方向(自然に関すること)に歌詞が進みがちですね。自然と自分との対比だったり、そういうのが好きなのかもしれないですね。
■「僕」と「キミ」の二人の世界が描かれている曲が多いのも、もう一つの特徴なのかなと感じました。
河村 やっぱり自分のルーツがラブソングなので、今回の作品はそのままいきたいなと思いましたね。作詞の世界というのは、受け取る側によって重ねる映像が違うと思うんです。たとえば、前にユーミン(松任谷由実)さんが自閉症の女の子のために作った曲を流したら、失恋した女性のリスナーから「私のために歌ってくれてありがとう」というお便りをもらったとラジオで話していて。こんなふうに作者の意図した映像と違う受け取られ方をすることも多いんですけど、それっていい誤解ですよね。そういう意味では、作詞の世界はなるべく分かりやす過ぎず、言葉を作り過ぎずというか。いろいろなところで、みんなの想いの輪と重なっていけたらいいのかなと思って書いてますね。
■こういう人に向けて書こう、というよりは、あくまでニュートラルな気持ちで作詞に臨んでいる?
河村 自分の中では、ピンポイントで映像を思い浮かべてはいるんですけどね。たとえば”Longing for”なんかだと、歌詞に出てくる「キミ」が、「きっと世界は つながってる・・・」ってつぶやくんですよね。この「キミ」というのは実は自分なんですよ。それが深層心理の自分か、幼き日の自分か未来の自分かは分からないけど、実は憧れていた地に行かなかったのは自分なんだなっていう心の声に初めて気づく。そんなふうに、いろいろな「キミ」がその瞬間の一つひとつに出てきますね。