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河村隆一 WEB LIMITED INTERVIEW

■タイトルの”Longing for”には、何かを切望するという意味があります。今、憧れの地について言われていましたが、河村さんにとってそういう世界があるとしたら、それはどんな世界ですか?

河村 もっと自由に歌える未来、ですかね。自分の存在を忘れるほど歌に集中する瞬間があるんですよ。それは、歌っていることさえも忘れるほどの感動だったり快楽だったりして。何度もそれを感じたいなと思うんだけど、たまになんですよね。一瞬だったりもするし、数曲だったりもする。ある時、上から自分を見下ろしているみたいな感覚になったことがあったんです。幽体離脱じゃないですけど、音も全て聴こえなくなって。でも後でDVDを見たら、「あ、ちゃんと歌ってる」みたいな。そういう時って本当に気持ちいい瞬間なんですよ。それは趣味のサーフィンだったりゴルフだったり、ほかのどんな場面でも経験したことがないですね。自分の人生のなかで歌の瞬間にしかない。

■そういった歌への追求が「No Mic, No Speakers Concert」だったりするんですか?

河村 そうですね。恐いことはとりあえず全部やってみようと思って。スピーカーもマイクも使わずに1600人の前に立つというのは負担もかかるし、それこそ調子が悪かったら何もアシストしてくれない。そこで得られる未知数の経験の重さが、自分の未来を拓くと思っていますね。

■2年ぶりのミュージックビデオも作られていますが、撮影はいかがでしたか?

河村 すごく楽しかったですよ。けっこうストレートにライブっぽい感じを出しましたね。柱がたくさんある広いスタジオだったんですけど、入った瞬間にすごくいい画が撮れるなと感じたのは記憶に残っています。

■もう1曲、”Colors of time”はアルバムのタイトルにもなっていますね。実は2年前からあった曲だと先ほどお聞きしましたが。

河村 アルバムタイトルは後づけでした。いろいろな曲の中に「雨」という言葉が出てくるので、雨にちなんだタイトルも考えたんです。でもジャケ写も撮り終えていて、ああいうカラーのグラデーションに加工していたので、こっちのタイトルがいいなというのはありましたね。あと雨といっても、冷たくて寒い、出かけるのが嫌になるような雨じゃなくて、その雨によって自分の心に発見があったり、ぬくもりを感じられるような恵みの雨を歌いたいと思っていたので。雨にもいろいろな色があっていいんじゃないかなと考えたんです。それでこのタイトルにしましたね。

■ジャケ写を拝見した時にすごく印象的な配色だったので、タイトルありきでジャケ写を作られたのかなと思っていました。

河村 本当そうですよね。自分でもそう思いましたよ。

■この曲は10曲の中で唯一の英歌詞ですよね。ここにはどんな意図があったんですか?

河村 機械式時計でパテック・フィリップというスイスのメーカーがあるんですけど、実は僕がファンで。2014年にパテック・フィリップ175周年のイベントが日本で開催されたときに、僕がお祝いをしたいからってオファーしたのがこの曲が生まれたきっかけです。チェアマンである会長と社長もいらしたし、曲の意味も伝えたかったから英語の歌詞にチャレンジしてみようかなと思ったんですね。ヨーロッパの人に日本の文化も知ってもらいたかったから、篠笛を入れてみたり。(曲の)最初にベルみたいな音が入ってるじゃないですか。あれ、実は時計の音なんですよ。ミニッツリピーターっていう、もともとは懐中時計の(現在時刻を鐘の音で知らせる)機構がありまして。パテック・フィリップのミニッツリピーターは世界で一番美しい音を奏でると言われているんです。それを自分のスタジオでサンプリングしてマイクで録って、楽曲に取り入れてみました。

■この曲にそんな背景があったとは……。

河村 “Colors of time”というタイトルも、時計メーカーの175年という雄大な歩みのことでもあるし、タイムピース(時計)のことでもあるし、そういう意味も含まれていますね。スマートフォンとか持っていると、機械式時計も含めて時計を見ることが減ってくると思うんですけど、僕は手巻きの時計のゼンマイが巻かれてほどけるというだけで命が吹き込まれて、命が終わってっていう繰り返しが好きで。古典的だしね。僕らの生活は時間にとらわれているけれど、生で音楽をやっていると、その時間(リズム)からわざと外れることが心地よかったりもする。そういう意味では、音楽をやっている人間に近いんじゃないかなとも思っていますね。

■現在、LUNA SEAやTourbillonとしても精力的に活動されていますが、ソロとしては来年で20周年を迎えますね。

河村 来年は原点回帰して、自分が一番得意な楽曲をたくさん作ってキャッチーなアルバムを制作したいと思っています。学校で、本を読んで感想文を書く課題ってあるじゃないですか。僕、いつも前書きとあとがきだけ読んで書いてたんですよ。(笑)今回の“Colors of time”は前書きのイメージなんですよね。来年作るアルバムは本編。僕にとっては本編を読まないくらい前書きを大事にしてきたんで、(笑)今回はもちろん自信作です。だけど来年は節目というのもあるし、本編のストーリーをしっかり描かないといけないなと思います。これまで活動してきた全ての年で作られた楽曲や行われたライブに通じる、20年間の集大成となるようなアルバムを新譜で発表できたらいいですね。

■最後に、読者に向けてメッセージをお願いします。

河村 これからもLUNA SEA、Tourbillon、そして河村隆一というソロワーク、たくさんのチャンネルを持ちながら一つひとつ大切に、新鮮なものとして伝えていきたいと思っています。このアルバムを聴いてもらって、ライブ会場に来ていただきたいのはもちろんなんですけど、このライブにはこの服を着ていこう、このライブはきっと騒ぐだろうな、このライブはお酒でも飲みながらとか、いろいろなイメージを重ねていただけたら嬉しいですね。

Interview&Text:矢作綾加

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