いままでの自分にピリオドを打って次のフェーズに進みたい、新しい自分を探したい
石崎ひゅーいが初のベストアルバム『Huwie Best』をリリースする。ファン投票により選ばれた上位14曲にプラスして新曲“ピリオド”、“花瓶の花”“夜間飛行”のアコースティックバージョンを収録することで、デビューからの5年半をただ振り返るだけではなく、終わりとこれからを提示する1枚ともなった今作、なぜいまベストアルバムをリリースするのか――春の始まりとともに新たな旅に出かける準備を始めた彼にその理由を訊いた。
■ファンの投票によるベストアルバムということですが、出揃った曲を見ていかがです?
石崎 自分たちで考えるとどうしても自分本位な選び方になってしまうし、こだわりが入ってきちゃうだろうからみんなに決めてもらおうってことと、ただのベストというよりは、5年半の活動の一区切りになるようなものにしたかったので、みんなの力を借りて一緒に作りたいなと投票にしたんですけど、意外に、あ、そうなんだって曲があったり、そうだよな、これは入るよなって曲があったりでおもしろかったですね。
■音源化されてない“常識”が入ったりしてますし。
石崎 “常識”が1位だったんですよ。
■へー、それは意外ですね。
石崎 “花瓶の花”とか“夜間飛行”とか、シングルで代表曲っぽい感じの曲より“常識”が1位になるってすごくおもしろいですよね。自分たちで選んだらたぶん入ってないかもしれないから、やっぱり視点が違うなって。
■それ以外は案外まっとうな感じがしました。ファンならではのマニアックさみたいなものももっと出るのかなと思ったんですけど。
石崎 僕ももうちょっと入るかと思ったんですけど、たぶんみんな空気読んでるんですよ。お母さんみたいな選択というか。
■あはは、やさしさ、みたいな。
石崎 これがひゅーいの5年半です、って胸を張って出せるような1枚にしようって、ライブやなんかでみんなに投げかけたので、マニアックな曲選んじゃったらひゅーいの次が思いやられるな、みたいな、そういうことをたぶん加味して、そのバランスが如実に出た選ばれ方ですよね、これは。
■“常識”が1位ということは、曲順は順位ではないということですね。
石崎 最初は出した順に並べてもいいかなと思ったんですけど、それで聴いたら聴きにくくて。あとは新曲の“ピリオド”を入れたので、そこに向かっていくような感じで組みたいということで、いろいろ模索してこうなりました。
■このベストアルバムを一区切りになるものにしたかったというのは?
石崎 5年半やってきて、『アタラズモトオカラズ』を出したあと、正直からっぽになってしまって。曲はいくらでもできるんだけど、何をこの世に出せばいいのかわかんなくなったというか。そういうスランプはいつもあるんですけど、もうちょっと根本的なやつというか、それが何かっていうのはまだ正確には突き止めてはいないんですけど。
■はい。
石崎 いままではそういう状況になると、とにかく寝るとか、ま、いいや、みたいな開き直り方をして生きてきたんですけど、今回はちょっと次のフェーズに行かないとなって。そのためにはいままでやってきたものへ対して、わかりやすい終わりというものを提示できるような1曲を作ろうってことで“ピリオド”を作って、その曲をアルバムの最後に入れて、いままでの僕とさよならするというか。なんかうまく言えないんですけど、そういう作業が必要だったんですよね、気持ち的に。
■次のステージにいく、進むということが必要だったと。
石崎 “ピリオド”もそうなんですけど、<恋の終わり>みたいなものにもちょっと似てるのかなというか、音楽的にそういう状態というか。
■あー、もう次にいくしかない状態。
石崎 そうそう。最初は、ヒットソングがあるわけじゃないからベストなんておこがましいと思ったんですけど、新曲を入れて、去年弾き語りも熱心にやってたからそれも入れて、そういった自分の進んでるところもちゃんと入れて、みんなで次に向かう1枚にしようってチームのみんなが言ってくれたから、“ピリオド”を作って入れることができてよかったなって。
■根本的なものをまだ突き止めてないってことは、スランプの状態はまだ抜けらていないってことでしょうか。
石崎 “ピリオド”を作って少しモヤが晴れた感じはするけど、まだ全然、視界良好って感じではないですね。
■なんとなくこれかなって思い当たることってあります?
石崎 いままで曲を生む苦しみというものを味わうことなく生きてきたんですけど、自分の中にたまってるものを5年半ずっと出し続けてるから、やっぱりすり減ってはいるんですよね。でもそのことにすら気づいてなくて、やっとそれがわかってきちゃったんでしょうね、あ、自分ほんとはすり減ってるんだって。
■やっと気づいて、あ、どうしよう、って。
石崎 そんな感じ。普段あんまりインプットとかしない人間なので、ただただすり減っていってて、で、いまやっと気づいて、おーい、すり減ってるよー!って。
■自分の声が聞こえたんですね。
石崎 それをいまやっと認めることができたというか。やっぱりどっかしらプライドがあるというか、シンガーソングライターとしてのプライドがあるから、いやいや、全然書けますよ、みたいな感じだったんでしょうね、5年半の最後のほうは。
■あー、それはもうどうにもこうにもならない状態になっちゃいますね。
石崎 そう、だからその状態をちゃんと認めて、できません!からっぽになりました!ってちゃんと言って、そこから意識的にインプットみたいなことをするようになって。
■具体的にはどんなことを?
石崎 本を読んだり、映画を観たり、音楽の友達に、曲ができないんだけどどうすればいいかなって話したり、あとは無意味にインドに行ってみたり。
■何しにですか?
石崎 ガンジス川を見に。(笑)まぁ、インプットするものなんて何ひとつとしてなかったですけどね。牛のフンと、犬と、詐欺師たちと、あとは腐ったチャイをずっと飲み続けて、おなか壊して下痢と頭痛で2日間寝込んでました。
■自分の中に何かを入れるって、例えば映画とか本とか、心を動かされるのがめんどうなときもあるけど、特にものを作ったりする人にはそれが必要なことでもあるんですよね。
石崎 ほんとそうで、俺いますべてが純粋に入ってくるから、もう感動系とかダメなんですよ。嗚咽しながら観てたりして。でももういままでの自分じゃあかんなと、かっこつけてる場合じゃないし、めんどくさがってもいられないなと思って嗚咽してます。