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木竜麻生 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

■富美がお兄さんに手紙を読むシーンは、ハイライトのひとつだと思うんですけど、13テイクも撮ったと聞きました。何がダメだったんですか?

木竜 最初の4〜5テイクまでは、カットがかかるたびに監督が来て、愛憎の憎の部分が少ないとか、もっと怒りを立てていいとか説明してくださったんですけど、そこからはここを直してとかではなくて、富美がどんな気持ちかを伝えられて。ただ、私は監督が「もう一回」と言ったら、素直にもう一回トライしようと思えたんです。それは監督に対して信頼を置けていたからだと思います。

■このシーンに限らず、監督はかなり粘る人だと聞いたんですけど、心が折れそうなときはなかったんですか?

木竜 野尻さんは助監督の経験が長い方ですし、これ以上は無理だと判断したら、ある程度の合格ラインを超えたところでOKを出されると思うんです。でも、その野尻さんが、もっといいものが撮れるはずだと、本当に納得いくまでやってくださるのは、役者を信じているからで、それは役者にとってうれしいことじゃないかなって。もう一度撮るということは、セットを元の位置に戻さなきゃいけないし、時間だって限られているはずですし。そのなかで何度も粘ってくださることに、私は愛を感じるというか、全力で応えたいと思っていました。

■お互いを信じているからこその「もう一回」だったんですね。映画は11月16日に公開されましたが、もう感想は届いていますか?

木竜 初日に監督と一緒にサイン会をしたときに、観終わったばかりの女性がいらっしゃって、一生懸命感想を伝えようとするんですけど、「なんて言っていいかわからないんです」って。私はその言葉で全部もらえた気がして。

■全部もらえたとは?

木竜 言葉にできないとかって、その人の心が動いているタイミングだと思うんです。その伝えたい気持ちにあふれている姿は、本当に素敵だったんですよね。そんな作品を監督をはじめ、素晴らしい役者さん、スタッフさんたちと一緒に作れたことがうれしくて。「あぁ、映画っていいなぁ」って思いました。1日のなかの2時間ちょっととかを、移動も含めたらもっとの時間を使って、財産を使って、映画を観てくれて、感想を伝えたいと思ってもらえる。こんなに幸せな職業はないんじゃないかと思いましたし、まだ「映画って」とか偉そうなことは言えないですけど、映画ってすごい力があるんだなと改めて思いました。

■映画も絶賛公開中ですが、主題歌(明星/Akeboshi“点と線”)のMVにも出演されていますよね。こちらも野尻さんが監督を務めて、「富美の1年後」を描いた作品ということですけど、どんな気持ちで撮影したんですか?

木竜 監督からは「設定は1年後だけど、そんなに意識しないでほしい」と言われたんです。でも、撮影が始まったら、監督がお兄ちゃんの話をしてきて、やっぱり意識したほうがいいんだなって。(笑)ただ、スタッフさんも映画でご一緒した方ばかりだったので、富美の気持ちになるのは難しくなかったです。

■映画を撮っていたときの気持ちを自然と思い出して?

木竜 そうですね。撮影中、監督が「いいけど、もう一回やっておくか」と言ったときに、「野尻組だなぁ〜」って感じがしたんですよ。(笑)それが嫌じゃないですし、むしろ楽しくて。助監督の方が「失礼します」って小道具を置いてくださったり、撮影の方が「もう少し右に行ってください」と言ってくださったり、そのたびに「あぁ、こうだったなぁ」と思い出して。そこも含めて1年後という形でMVを作れたことが、本当にうれしかったです。

■MVは冒頭で「あの時は、ごめんなさい」と書こうとしていた手紙が、最後は「あの時は、ありがとう」になっていますよね。どういう解釈で演じたんですか?

木竜 映画のなかでも、最後にそれぞれ思うことがあって。だけど決して、悪い方向を向いているだけではなくて。私は正直、この鈴木家の家族は、これからも絶対しんどいし、これで終わりじゃないし、もう下ろせない荷物をみんなが背負ったと思っているんです。だけど、一人が背負う荷物の量が、ちょっとだけ分けっこできたのかなと思っていて。その分けっこした先に、たとえばお兄ちゃんと夜更かししたとか、お父さんとお母さんのお菓子をこっそり持っていったとか、昔のことを1年前よりも素直に思い出せるようになったんだなと思ったので、それで「ありがとう」という気持ちになったんです。

Interview&Text:タナカヒロシ

PROFILE
1994年7月1日生まれ、新潟県出身。スカウトをきっかけに芸能界デビュー。映画出演作に『まほろ駅前狂騒曲』(大森立嗣監督)、『アゲイン』(大森寿美男監督)、『グッドモーニングショー』(君塚良一監督)などがある。2018年7月公開の『菊とギロチン』(瀬々敬久監督)では、オーディションを勝ち抜いてヒロインの花菊役を射止め、『鈴木家の嘘』でもワークショップを経て2000名(うちヒロイン希望者は400名)の中から富美役に抜擢。この2作での演技が絶賛され、2018年に開催された第31回東京国際映画祭では「東京ジェムストーン賞」を受賞。自身初の写真集『Mai』も発売中。

http://www.monopolize2008.com/profile/kiryu.html

公開情報
『鈴木家の嘘』
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新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほか全国にて公開中
出演:岸部一徳、原日出子、木竜麻生、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋ほか
監督・脚本:野尻克己
配給:松竹ブロードキャスティング/ビターズ・エンド
©松竹ブロードキャスティング
http://suzukikenouso.com/

STORY
あまりにも突然に訪れた長男・浩一の死。ショックのあまり記憶を失った母のため、遺された父と長女は一世一代の嘘をつく。ひきこもりだった浩一は、扉を開けて家を離れ、世界に飛び出したのだと――。母の笑顔を守るべく奮闘する父と娘の姿をユーモラスに描きつつ、悲しみと悔しみを抱えながら再生しようともがく家族の姿を丁寧に紡ぐ感動作。
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