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木竜麻生 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

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東京国際映画祭でも絶賛された注目の女優が、最新作『鈴木家の嘘』にかけた想いを語る

木竜麻生(きりゅうまい)がヒロインを務めた映画『鈴木家の嘘』が11月16日に公開された。岸部一徳、原日出子、加瀬亮、岸本加世子、大森南朋という錚々たる役者陣が居並ぶなか、オーディションを兼ねたワークショップで400人から選ばれ、兄の自死に向き合う難しい役どころを見事に演じた彼女。第31回東京国際映画祭では、同じくオーディションから主演を射止めた『菊とギロチン』での活躍も含めて、輝きを放った若手俳優に贈られる“東京ジェムストーン賞”を受賞するなど、いま最も注目を集めている女優の一人と言って間違いない。今後の彼女を語るうえで欠かせない作品となるであろう『鈴木家の嘘』について、見どころや撮影エピソード、そしてあふれる想いをたっぷりと話してもらった。

■『鈴木家の嘘』は、どんな映画なのか教えてください。

木竜 鈴木家はお父さん(岸部一徳)、お母さん(原日出子)、お兄ちゃん(加瀬亮)、私の4人家族で、お兄ちゃんが突然亡くなってしまうんです。そこから、いままで見えてなかった部分、見ようとしてなかった部分に、家族みんながそれぞれの立場、感覚からいろんなことを感じて、もがきながら再生していく様子が丁寧に描かれた映画になっています。

■木竜さんが演じた富美(ふみ)は、どんな人物ですか?

木竜 この映画では、どの登場人物も、みんながどこかで想像できるような感じに描かれていると思うんです。富美もそのなかの一人で、言葉では多く語らないけど、お兄ちゃんのこととか、お兄ちゃんのことから生まれた両親の言動や行動に対して、どんどん漏れ出てしまう部分があって。そういう不器用なところだったり、わがままなところが出てしまう幼さだったりが、ちゃんと年相応に残っている女の子だなと思います。

■富美の性格は、実際の木竜さんに近いんですか?

木竜 近いところはあるのかなって。脚本を読んでいるときは、富美が言っている言葉や、感じているであろう気持ちが、すごくわかるなと感じることが多かったんです。撮影のときも、自分の地から出ているような気持ちになりましたし。思っていることをどの言葉にしたらいちばん伝わるのか、そんなことをぐるぐる考えているところは、すごく似ているなと思います。

■木竜さんは悩みがちなタイプなんですか?

木竜 そうですね。(笑)私はけっこう悩みがちだと思います。

■何に悩むんですか?

木竜 お仕事のことはすごく考えますし、家族のこととかも考えますし。何かに悩んで考え出すと「うおぉぉぉ」みたいになって、勝手に振り回されちゃうんですよ。考えて考えて、うまい具合に言おうとするんですけど、すぐ顔に出るから、嘘をつくとバレるんです。それでよく家族のことを苛立たせていると思います。

■それ、役者としてはダメなんじゃないですか?(笑)

木竜 そうですよね。(笑)でも、だからこそ、ちゃんと納得できてから演じなきゃと思っていて。自分が腑に落ちないとやれないというか、ゴロゴロした異物みたいなものが残らないようにやりたいんです。そのへんは頑固なのかなと思います。

■『鈴木家の嘘』は野尻克己監督の実体験を基にした映画ですが、監督とはどんな話をされたんですか?

木竜 監督のご家族に対する気持ちを聞かせてもらったり、私が感じている家族や親しい人への気持ちを話したり、ワークショップのときから全力で向き合ってくださって。実体験が基になっていることは、本当はワークショップ中に言うつもりはなかったらしいんです。でも、私も親しい人が亡くなった経験をしていて、ワークショップを受けるうえで避けては通れないなと感じたので、そのことを監督にお話ししたんです。そうしたら廊下に呼ばれて「実は僕の話で、富美には僕自身の想いも入っている」と。そこから演出を受ける際に、あのときはどんな気持ちだったとか話してくださって。それは私が富美という人物を想像するなかで、すごく助けていただいたところでした。

■そういう監督の気持ちを聞いて、どう演じようと思いました?

木竜 最初はそこを大事にしたいと思っていたんですけど、監督からは「僕がこう言ったからこういう気持ちで演じるとかではなく、それがあったうえで自分がどう感じるかを出してほしい」と言われたんです。だから、監督が感じた気持ちとは違うところもあったかもしれないですけど、そこは自分が思うようにやらせていただきました。

■それはそれで難しそうですね。

木竜 そうですね。ワークショップが終わってから、(劇中でも披露されている)新体操の練習を4カ月くらいしたんですけど、自分でも気づかないうちに、顔がどんどん変わっていったらしくて。もともと気の抜けたような感じなのに、尖った雰囲気になったと監督から言われたんです。それで、富美がどんな気持ちになるかはわかっているはずだから、もう台本は読まなくていいと。それが撮影に入る1〜2週間くらい前だったんですけど、それからは台本を一切開かず、クランクインの前日に、次の日にやるシーンだけ確認して現場に行きました。

■重いテーマの作品だし、考えすぎて精神的によくない方向に行っちゃったんですか?

木竜 私は新体操を小学校から9年間やっていたんですけど、そのときの調子や気持ちが反映されるスポーツなんです。だから練習をしているときは、すごく自分と向き合う時間になって、映画のなかの富美が、どんどん自分になっていったというか。台本を読んで「そうなのか」と思うんじゃなくて、「そうなんだよな」って。それは監督の書く脚本に「なんでこれを言うんだろう?」というところが、本当になかったからだと思うんです。こういう気持ちが流れて、こういう行動になるなっていうことが、全部気持ちよく落ちていったので。

■それで自然と自分のなかに富美が入り込んで、顔つきまで変わってしまった。

木竜 そうなんだと思います。でも、せっかく素晴らしい役者さんとご一緒できるんだから、自分のなかだけで作りすぎてしまうのはもったいないなと思って。監督から言ってもらったおかげで、相手がいてお芝居できるということを大事にできたと思います。

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