■じゃあ、あえて日常や自分とのバランスを取るということはせずにいたということなんですか?
安田 ずっとそこにいたほうが作品のためだと思うし、そうしたいっていう想いがあったんでしょうね。だからなるべくその期間中は、それ以外の人や日常には関わりたくないなって。
■なるほど。さっきも“愛”という言葉が出ましたけど、いろんな愛のかたちが描かれた作品ですね。
安田 いろんなラブソングがありますもんね。愛は素晴らしいって歌もあるし、好きを通り越して恨んじゃった、みたいな歌もあるし、いろんなラブソングがあるから、これもある意味ラブソングであることに間違いないし、愛の映画であることに間違いない。
■はい。そうですね。
安田 達観しているんです。それもひとつの生き方だし、生きていくってことだから。ただ奥底に割り切っているもの以外のものを持っているからこそ、岩男であったり、アイリーンであったり、それぞれ金だけではなくて、違うかたちでも関係を持てたんじゃないかと思うし、伊勢谷(友介)さんもとんでもないコンプレックスを抱えた役だし、みんなどこかそういった心の振り切りを抱えていて、それがたまらなくいいんです。
■そこが美しくもあり、愛おしくもあり、それぞれの人物に心を揺さぶられた理由なんだと思います。この映画に参加されて、あらためていまどのように感じていますか。
安田 𠮷田恵輔監督の20年間の想いがあって、自分の本当にやりたかったことがこの中につめ込まれていて、間違いなくこの作品のクオリティは𠮷田恵輔監督だからこそのものだと思います。だから完成したものを観たとき、そこに関われているのが自分でよかったと思いました。もし違う人が岩男をやることになっていたら、間違いなく嫉妬する。僕にとってはそういう作品です。夏の撮影が終わって家に帰ったとき、いちばん最初に言った言葉は、これは自分にとって代表作になるかもしれないという言葉でした。それは出来上がる前に感じていたことで、作品を観て思ったのは、間違いなく自分にとって楔となる作品になったということです。
■ありがとうございます。最後に観どころを含め、メッセージをいただけますか。
安田 ぜひ観てほしいという想いが強くあります。宣伝するのに嘘はつけないので言いますけど、劇場を出たときにさわやかな想いとか、明日もがんばろうとか、そういった想いで空を見上げる映画ではないと思います。どちらかと言うと何かしらのショックがあるかもしれないです。ただ、観終わったあとに、それまで見慣れていた景色が、街並みが、すれ違う人たちが、まったく違って見えることは間違いないと思います。まったく違う感覚で見えてくるんじゃないかと思います。あと、好きな人とこの映画を一緒に観て、出て来たときに、もしも手をつないだとしたら、それは今までつないでいた手の感覚とは違う感覚があるかもしれないと思います。そういうものをぜひ体感してもらえたら光栄です。
Interview & Text:藤坂綾
PROFILE
演劇ユニット「TEAM NACS」のメンバー。舞台、映画、ドラマなどを中心に全国的に活動。音楽にも造詣が深く、北海道では音楽番組のナレーションを放送開始から15年担当、雑誌ではアーティストと対談連載ページを持つ。実父とのやりとりを綴った『北海道室蘭市本町一丁目四十六番地』も発刊し、思いの丈を柔らかい文章で表現している。近年は映画・ドラマ・舞台など、数々の話題作に出演。硬派な役から個性的な役まで幅広く演じている。
公開情報
『愛しのアイリーン』
9月14日(金)TOHOシネマズシャンテほか、全国ロードショー
監督:𠮷田恵輔
出演:安田顕、ナッツ・シトイ、木野花、伊勢谷友介、ほか
配給:スターサンズ
© 2018「愛しのアイリーン」フィルムパートナーズ(VAP/スターサンズ/朝日新聞社)
STORY
「ワールド・イズ・マイン」「宮本から君へ」など、社会に蔓延る様々なテーマを痛烈なメッセージ性で描き続けてきた新井英樹の同名コミックを実写映画化。監督を務めるのは、『愛しのアイリーン』を“最も影響を受けた漫画”と公言する𠮷田恵輔。主人公の宍戸岩男役で安田顕が主演を務める。年老いた両親との3人暮らしの42歳独身の宍戸岩男が、久方ぶりに帰省したその日は、死んだことすら知らなかった父親の葬儀中だった。しかもその時、岩男はフィリピンで買って来た嫁、アイリーンを連れていた。恋愛を知らずに生きてきた岩男に無邪気にまとわりつくアイリーン。騒つく参列者たちの背後から現れたのは、ライフルを構えた喪服姿の母親ツル。そして外国人女性・アイリーンの生き様を中心に、アイリーンと彼女を取巻く人々の欲望の姿を描く。