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安田顕 VANITYMIX WEB LIMITED INTERVIEW

愛とは何か、しあわせとは何か
――それぞれの答えが生々しく美しく描かれた『愛しのアイリーン』

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様々な社会問題を扱いながら家族の愛を描いた新井英樹の『愛しのアイリーン』。その原作を“最も影響を受けた漫画”と公言する𠮷田恵輔監督が映画化、9月14日公開となる。人間の中に潜む醜さ、愚かさ、残酷さ。そしてその先にある美しさと愛おしさ。観たあとの感情の乱れはどうしようもないほどのものだが、ぜひとも多くの人にそれを感じてもらいたい。「この作品が代表作になるかもしれない」という宍戸岩男役の安田顕が、映画の熱量そのままに話をしてくれた。

■試写をご覧になられて、「マイク・タイソンに殴られた感じ」とコメントされていましたね。

安田 実際にマイク・タイソンに殴られたら死んでるからな~。(笑)でも鈍器で思いっきり殴られたような衝撃を受けたのは事実です。その衝撃は何なんだろうって、いまだに分析しにくいんですけど、、、。

■なるほど。

安田 こうやって取材でお話させていただく中で、だんだん自分の中で固まってきたんですけど、まず、なぜそうなったかというと、スクリーンに映っている人の熱量だったり、𠮷田(恵輔)監督の熱量だったり、作品自体に出てくる熱、生々しさに面食らってる自分がいたんだろうなって。普段の自分がここまでの熱量で生きているかっていったら、決してそうではないから。「何だこれは」っていう気持ちがあったのかなって、いまは思います。

■撮影されているときとはまた全然違う感じだったんですか?

安田 撮影しているときは岩男と一緒にいたいという想いが強くて。もともと実在しない人なんだけど、自分がそこから離れちゃったら岩男はその現場にいなくなっちゃうし、彼に対してそうしたくないなっていうところまで陥っちゃっていたというか。同化したくて仕方がないというか、現場ではそういう面持ちでしたからね。監督の想いだったり、作品の想いを伝え届けるうえで、すごく重要なポジションだったので、岩男と片時も離れたくないっていう想いがまずあったのと、こんな想いするくらいだったらはやく逃げ出したいっていうのとが交互にあって。

■逃げ出したい、ですか?

安田 そう、はやく現場を立ち去りたいっていう気持ち、それが交互に訪れる感じでしたね。

■登場する人物がそれぞれ人間の本質的な部分、醜さや見たくない部分をあらわにされているから、何かしらこの人のここに共感してしまうっていう場面がすごく多くて。

安田 そうなんです。僕もそれはすごく感じました。

■だからもう嫌だな、と思いながらもぐいぐい引き込まれていってしまいました。

安田 だからまたすぐには観たくないと思うんですよね、この映画は。

■そうなんです。

安田 例えば、すれ違ったときにインプットしたくないっていうのがどこかにあって、無意識に見過ごすことって結構あるじゃないですか、それは自分にとって必要じゃないから。でも本当は見てるでしょ?感じてるでしょ?ただ蓋してるだけじゃないの?っていうのを見せつけられるというか。僕なんか実際自分が演じていたから、(アイリーンに向かって)金を投げつけたときのあの不逞の態度っていうのは、台詞にはあるけど、自分自身絶対に認めたくないものを見せつけられたというか。でもあれが本質だから、自分の本質だから、認めざるを得ないって確認したときはショックでした。でもこれが「ディスイズマネーだ、キャッシュカードだ、ゴー、フィリピン!」って言っているときとは意味が全然違うじゃないですか。

■はい。そうですよね。

安田 そういうところもこの作品のしびれるところじゃないのかなって。なんか上っ面の愛じゃないっていうか。残ったものは、意図的じゃないにしても木に彫ったものだっていうことなんじゃないかなって。

■深い愛というか、すごく純粋なものを突きつけられたような気がしました。試写を観てからまだ2日しか経っていないということもありますが、ずっと映画の中から抜け出せないでいます。

安田 僕もね、試写を観た次の日に『正義のセ』の撮影をやっていたんですけど、マネージャーと「きのうのあのシーンは一体何だったんだ」っていう話しかできないんですよ。全然切り替えられない。自分にとって、自分が出ていたからってことじゃなくて、そういう作品なんだな、と。それを見事に作られた𠮷田恵輔さんの感性、監督としての手腕にもう脱帽ですね。あとはそこに自分がいることができてしあわせでしたね。

■岩男に入り込んで抜け出せなくなってしまった場合、ご自身とのバランスはどうやって取られていたんですか?

安田 苦しいんですよ、全部を振るから。でもひょっとしたらそれで救われていたのかもしれない。でもやっぱり苦しいし、切り替えなくちゃいけないのも苦しい。だからほかの日常が入ってくるのがすごく嫌だったんです。現場の人たちとしか触れ合いたくないというか。

■そうでしょうね。

安田 マネージャーさんがロケ中に心配して来てくれたりするんですよ。現場に来て側にいてくれたりするんですけど、戻りたくないんですよ、日常に。だからね、「いつもほんとにありがとう、いつも感謝してる、でも今は悪いけど俺の視界から消えてくれ」って言ったことがある。(笑)

■そうなんですか。

安田 あとになって何てことを言ったんだろうと思って「ごめんな」って。でも言っちゃったことはもう消えないし、「いいです、いいです」って、そう言って許してくれたけど。本当は許してくれてないかもしれない、それくらい、けば立っていたというか。

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