大胡田なつき(Vo)、成田ハネダ(Key)、三澤勝洸(Gt)、露崎義邦(Ba)
どの曲をどこから聴いてもオールOKなパスピエのバンド感溢れるニューアルバム
パスピエのニューミニアルバム『ネオンと虎』は確立した楽曲揃い。どの曲をどこから聴いてもオールOKな1枚だ。それはまるでアラカルトや幕の内弁当のごとく。栄養価もバランスも、見栄えもよく、それでいてどれもとてもおいしいものばかりだ。これまでとは制作方法やレコーディング意識も変わり、結果、それが全体的にバンド感や生感の増加へと結びついたという今作。アッパーさや勢い、衝動性に頼らないながらも、しっかりと擁した躍動感と、ハイトーンに逃げない大胡田なつきの成長した歌表現や歌表情のアップ。また、伝えられる、これまで以上に明確な意思を持った各曲のリリック等々、聴きどころやハイライトが満載だ。どことなく新たなる決意や覚悟を感じさせた今作を紐解くべく、その辺りの真意をメンバー全員に訊いた。
■今作からは新たなる決意的なものを感じました。今までの自分たちのお家芸だけでなく、次に向かう為にも必要な「新たな自分たちで勝負してやる」的な意気込みが見受けられたんです。
成田 それは嬉しい感想ですね。結果、そのような作風になったと自分たちでも感じていて。その辺りは今回、ミニアルバムという仕様を選んだことにも関係していると思っています。
■それは?
成田 曲数が少ないぶん、1曲1曲をよりソリッドに伝えたかったんです。そこに情報等、様々な伝えたいことを詰め込んだ結果、従来とはまた違ったパスピエらしさにつながったかなって。
■おっしゃる通りミニアルバムならではのバラエティさがあります。いわゆる、どこを切り取っても、どこから聴いてもいい感じの作品とでも言うか…。
成田 まさに狙っていたのはそこで。もちろん曲順や流れで聴く楽しみ方も大事ですが、1曲1曲に接してもらう時間がフルアルバムよりも長くなるぶん、より楽しんでもらいたい気持ちがあったんです。
大胡田 そうそう。ミニアルバムだからこそ出来るフルアルバムに匹敵するぐらいの内容の濃さ。その辺りはかなり表現できたかなって。
■では、今回はあえてアラカルトや幕の内弁当スタイルを選んだと?
大胡田 ところがそうでもなくて。(笑)
成田 自然に集まった7曲という表現の方が近いかな。その辺りは作っているうちに見えてきた面でもあったので。今回は、いつもみたいに候補曲を沢山用意して、そこから選ぶのではなく、先に収録したい7曲をイメージして、各曲そこに向けてアレンジを詰めていったんです。なので、よりメンバー間でのアレンジの詰めに時間が割けました。それが故の新鮮さも詰め込めたかなと。
三澤 今回はかなりスタジオでアレンジを詰めていく作業に時間を費やせましたからね。前作までは、わりとメンバー間でのデータのやり取りで各々詰めていったアレンジも、今回はスタジオでみんなでいろいろな意見を出し合いながら進めた曲も多くて。おかげさまで、かなりバンドっぽさが前面に出た作品になりました。
■今作はかなりバンドとしての生感がありますもんね。
露崎 レコーディングに入ったのが今年になってからだったので、バンドのグルーヴを新鮮なままパッケージ出来たことが影響してるかと思います。
■うわっ。かなりタイトだったんですね。
露崎 それもあって、その短い時間内での凝縮感や瞬発力も含まれての今作かなと。
三澤 それこそ今回は一発録りをした曲もありましたから。これまでもドラム、ベース、ギターで一緒に録ったこともありましたが、成ハネ(成田)も一緒にお互いが一つのスタジオの中で顔を見合わせながら録ったのは今回が初で。その辺りも全体的なバンド感につながっているのかなって。
■一般的にそのような作り方だと、勢い重視でライブ感溢れる作風になりがちですが、そうはなっていないのが面白いです。
成田 その辺りは曲の配置の妙や曲毎にいろいろと考えてアレンジを練った結果でしょう。メリハリはかなり意識したので。
■曲順にも驚きました。従来なら“マッカメッカ”や“トビウオ”みたいな曲を1曲目に持ってきそうですが、あえて“ネオンと虎”でしたから。
成田 正直そこはかなり迷いました。アルバム全体をもっとアクティブな方向に魅せる方法案や、今作をどれぐらいの温度感で伝えるべきかは、とても思案しました。それこそ、各曲の質や温度にはこだわりました。
■そこなんです!勢いや躍動感をキチンと擁しつつも、ダイナミズムも内包している。その1曲内での同居の曲が多いのも今作の特徴かなと。
成田 やはりバンドである以上、ドラムやベースに関してはボトムがシッカリ鳴っていて欲しいし。ギターやキーボードはある程度暴れたりして、その上で歌が確立して欲しいですからね。今回は、そのいろいろな欲求を詰め込みつつも、実践できた達成感があるんです。
三澤 それこそ前作ミニアルバムの『OTONARIさん』は、自分にすごく向き合った制作でしたからね。その反動も含めての今作だったのかな?とも。やはりドラマーが抜けたことは大きくて。前作はそんな中でのトライアル的なレコーディングでしたが、それを経て自分たちなりに消化して、今回のレコーディングに臨めたのも大きかったです。
露崎 今回はより各々の役割や立ち位置、出る箇所や引っ込む箇所がより明確になりました。それも前作を経たからこその今作での躍動さに繋がったりもしたし。バンドとしても成長した作品になりましたね。