誠実な作品を作ること
自らの名を冠したソロデビューアルバム
トータルセールス7000万枚超、2011年以来、数々の1位と記録を打ち立ててきた史上最大のグループ、ワン・ダイレクションの一員として活躍し続けてきたハリー・スタイルズ。ソロとして初めての自己紹介的作品というよりは、23歳になったひとりの男の音楽的な所信表明とも言える作品について、詳しく話を訊いた。
■デビューアルバムを制作するにあたって、方向性はどのように考えていましたか?
H デビューアルバムの方向性について、唯一はっきり自覚していたのは〈自分に正直なアルバムを作りたい〉ということだったんだ。歌詞を書いてから盛りすぎたなと思うのも嫌だったし、凝りすぎたって思うのも嫌だったので、あまり歌詞をいじりすぎないようにしたんだ。多くの人は音楽制作に取り組むときに、制作側に立ち過ぎて、音楽ファンである自分を切り離して考えてしまう傾向にあると思うんだ。僕は音楽のファンだから、とにかく自分が聴きたいと思うものを作りたいと思ったし、作り手としての自分と音楽ファンとしての自分の間に壁を作らないようにしたいと思ったんだ。さらに、アルバム作りに関わったミュージシャン5人全員が、自分たちが聴きたいもの、じっくり楽しみたいものを作りたいと、同じように考えていたのが良かったんだと思っているよ。すごくラッキーだったと思うし、そういう形で取り組むことができて本当によかったよ。自分たちが聴いて楽しめるものができたからね。何かを作ろうとしているときにできることって、結局はそれに尽きるんじゃないかな。
■スタジオ作業はどうでしたか?
H すごく楽しかったよ。毎日仕事をして過ごすには素晴らしい場所だったし、仕事をしながらすごく休めた気持ちにもなれたしね。素晴らしい経験ができたと思っているよ。ああいう形でアルバムを作ったことは今までなかったし、何かに完全に没頭できるって本当に楽しいことだと分かったよ。アルバムの楽曲はとにかく書いてみて、どんな風にできあがっていくのか、まずは様子を見てみたかったんだ。実際、始めたときとは全然違う形ででき上がったと思うよ。とにかく作り初めてみたらどんな曲が書けるのか、ということに興味があったし、できあがってくると、これは自分の曲だし守ろう、守らなくちゃいけない、なんていう気持ちも芽生えてきたよね。初めはもっとロックっぽい感じをイメージしていたんだけどね。エネルギーをたくさん放出するにはロックがいいと思ったし、作っている曲の好きな部分を歌っている自分を思い描きながら作っていたからね。自分が歌いたいものから作り始めて行った感じだよ。それがそのあとジャマイカに滞在して、いろんなことを試していくうちに、音楽的にものすごく変わっていったんだ。単なるブルースやロックからいろんなものを試す実験的な内容になっていったと思うよ。
■ファーストシングル“サイン・オブ・ザ・タイムズ”はどのようにできましたか?
H 書いているときは、ピアノだけのわりとシンプルで親密な曲にとどめておこうかと思っていたんだ。そこにプロデューサーのジェフ・バスカーがスタジオにやって来て、その段階までできていた曲を聴かせたら、彼はドラムの前に座ってドラムを叩き始めたんだ。それを聴いて、この曲はそのままにしておくより、こうやってドラムなんかを足していったほうがずっとよくなるっていう気がしてきたんだよ。そこからすべて変わっていったね。いろんな楽器を足していったんだ。でもこの曲はできあがるのが一番早かった。楽曲自らが語ってくる感じがしてね。曲が早くできるときは、こっちが無理し過ぎなくていいってことがわかったよ。なぜなら曲も歌詞もひとりでに書かれていくような感じだったし、すごくいい兆候だとわかったんだ。ものすごく早くでき上がったし、でき上がったときにはとても気持ちが良かったね。
■アルバムに収録されている他の楽曲についても教えてください。
H “カロライナ”という曲があって、この曲はアルバムの中で最後にできた曲なんだけど、この曲ができあがる前、2週間くらい曲作りをしていて、あまりにもいろいろと考え始めてしまって、みんなで「ああでもない、こうでもない」と話し始めて、結局そうやって議論するのは嫌だからもう止めようってことになったんだ。「あーもう、最悪だ」みたいな。(笑)つまり、分析しすぎていたんだよね。何かを作りだそうとして頑張りすぎていた。結局はそこからは何もできなかったけどね。そして後になって“カロライナ”を作り始めたら、すごく楽しくやることができたんだ。気楽な感じで、歌詞を書いている間もジョークを飛ばしあっていたよ。曲作りがとにかく楽しくて。最終的にできたものも、アルバムに必要だった楽しい要素を付け加えてくれるような楽曲に仕上がったと思う。曲を無理矢理生み出すことはできないってわかったのは、いいことだと思ったよ。2週間何か楽しいものを書こうって必死になっていたけど、何も楽しくなかった。その時間を楽しんでいなかったからだね。だから、最後に“カロライナ”を書いたときには、みんなすごく手ごたえがあったんだ。アルバムに必要だったものを補ってくれたと思うし、最終的にアルバムを完成させてくれたんだ。最高の気分だったよ!