各曲が独立していながらも大きな一つの物語として成立しているBENIの映像感覚溢れるニューアルバム
BENIのニューアルバム『Cinematic』は、まさに一本の映画を見ているような全13曲。次から次へと曲毎にシーンが移り、各曲が独立した物語を展開していながらも、全体像ではキチンと一つの流れや大きな物語を擁しているのも特徴的だ。まるで映画のシーンやストーリーの断片を各曲を通し聴き手毎に浮かばせる今作。楽曲から何かのテーマへと落とし込むこれまでの手法から、先にモチーフやビジョンを設定し、そこに向けて歌や歌詞で演出を加えていく新しいプロダクトへの移行も功を奏している。比較的余裕のあった制作期間も手伝い、これまで以上に楽しく豊かな気持ちで制作できたという今作。あなたはこれらを聴いて、楽曲毎にどのような映像やストーリーを育ませるのだろうか?
■前作アルバムの『Undress』がポップ性も含め、かなりカラフルな作風でしたが、その後、今作に向けての配信曲たちが各々全く違ったタイプだったので、正直アルバムの内容が想像もつきませんでした。(笑)ですが、結果、かなりいい感じでのバラエティさとトーンに落とし込んだ作品内容だったのには驚きました。
BENI 実は『Undress』をリリースしてから、ずっと楽曲制作は続けていたんです。その時から作り溜めていた曲もあれば、ギリギリになってゼロから作り始めた曲もあったりするのが今作で。そう考えると、この1年半~2年間の私の心境や様々な想い等がギュッと詰まった作品になったかなって。逆に初めてって言ってもいいぐらい、多くの候補曲の中から収録する曲を選べる贅沢さもあったし。(笑)ストック曲もかなり溜まっていましたからね。とにかく今回は、ゆっくりじっくりと作りたかったんです。
■そんな中、今作への収録の基準ってどんな所だったんですか?
BENI ビジョンが浮かんでくるものですね。聴いていて物語が膨らむような…。なので、サウンドの一貫性よりも、それこそ自分が映画のサントラを作るとしたら…そんなイメージで選曲をしました。
■その先にビジョンを思い浮かべ、そこに向けて合った楽曲を落とし込む手法はユニークですね。
BENI それこそ勝手にいろいろと妄想しながら作っていきましたよ。(笑)こんなストーリーやドラマの映画があって、それに乗せる歌だったらこういったタイプだろうな…とか。なので、今作は歌発信よりも浮かんだビジョン発信の作品とも言えるわけで。「この場面で流れる曲を作るなら、こんなタイプの曲で、こんな歌内容だろうな…」って。いわゆる逆算して形にしていく。実はそのような作り方自体初めてだったんです。
■シチュエーションありきで自分の曲や歌を、逆にそこに当てはめていく、みたいな?
BENI そうですね。とは言え、それも単に目に映るものだけじゃなくて、シーンはもちろん、そこで漂っている匂い、空気感や雰囲気みたいなものも思い浮かべながら、それを音楽に落とし込んでいった感じでした。それが今回の『Cinematic』というワードに繋がって。それに伴うMVも作ったんです。
■あのシングル3部作に於ける大作のMVはすごいです。
BENI 単なる楽曲をトレースしたりリップシンクしたり、プロモーション用なだけでなく、もっとストーリーやメッセージが深く入ったものにしたくて作りました。いわゆる観た人毎に、各曲の内容やイメージが変わるような膨らみ方につながる映像を映画っぽく作ってみたくて。そこからですね、『Cinematic』という一貫性が今作についたのは。
■テーマがあると絞られて、それ前提に描かなくてはいけない枷も出てきそうな印象ですが?
BENI そっちの方が断然ゼロベースから考えるのではなく、あるものから派生させたり膨らませていくので、楽と言えば楽なんです。逆に決めごとがあってくれてありがとうぐらい。(笑)それこそ、いつもとは違う引き出しをくれた感じでしたね。絶対に自分発信だと書き切れないし、生まれない発想も出てきたりしますから。あとは自分じゃない自分になりきれる面もあったり。自分で書いた曲ながら、相手が別にいて、その人に捧げて書いているような…。なので、今回は普段の私じゃしない表現や挑戦も沢山あるんです。ラテンにしても初挑戦だったし。それもこのような機会が無かったらやっていなかったでしょうね。ある意味、別の自分になり切ることでより新しいことが出来た、違う自分を演じたことで新しいテイストが生まれた、そんな作品でもあるんです。
■それってスッと出てくるものなんですか?
BENI やはり全く自分に無いものは出てきませんよ。元々知っていたり、これまでの私じゃイメージ上できなかったけど、この機会にやってみようとか。ひそかにそれを狙っていたり…。(笑)表には出さないですが、実はプライベートでは聴いていたり、好きだった音楽性や表現、その辺りも今回かなり表せました。今回のラテンミュージックなんてまさにそれで。元々カリビアンな音楽性が好きだった面もあったんです、私。
■ということは、それによって新しい自分が出せたし、逆に殻を破れた感もあったり?
BENI それはあります。それを破らせてくれたいい機会でしたね。だから曲作りもレコーディングもこれまで以上に新鮮だったし、楽しかったです。その分、置き場に困るキャラの濃い曲たちばかりになっちゃいましたが。(笑)でも、既にライブで演っている曲も入っていますが、けっこう盛り上がるんですよ。スタジアムで歌っている自分を想像して作った曲は、その感覚を持ちながら気持ち良く歌えたり。